...陽
遠くの方で名前を呼ばれているのに気がついて、ゆっくり目を開ける。
「陽?」
肩を叩かれて顔を上げると、隣には港がいた。
「魘されてたから起こしたんだけど。…夢?」
ぼんやりしている意識が戻る前に、今自分が座っている場所がどこなのか、どこにいるのかを先に理解した。
「びょ…いん?」
「ん、病院。起こすの悪いと思って。黙って連れてきてごめん」
徐々に意識も戻ってくると、汗でか服が濡れているのがわかる。
『港は仕事に行かなくていいの?』
そう港に聞きたくても、上手く声が出せなくて。
「歩かなくていいから」
そう言われて返事をする前に、体を抱えられて宙に浮いた。
扉が開く音が聞こえると、中から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あれ、寝てる?」
「いえ、起きてます」
ベッドの上にゆっくり体が下ろされると、見慣れた先生がいた。
「こんにちは。久しぶりだね、この前は拒否られたもんなぁ」
急に顔を覗かれて、思わず顔を背ける。
「はは、俺はやだって。上野先生」
「陽なら頑張れるよね?…大丈夫」
一度手を握ってくれた港は、「じゃあ…お願いします」と一声かけて、診察室の扉に手を掛けた。
「はいはーい」
診察室を出ていこうとする港に、行かないで欲しいと目で訴えると
「陽、後で迎えに来るから」
と片手を振って診察室を出て行った。