一方、俺はまだ何もできずにいた。


あの日渡すはずだった赤いキャンディは、未だに俺の手の中にある。


あの日伝えるはずだった想いは、今も伝えられずにいる。


何もしないまま、ホワイトデーは過ぎていき、今日もまた、彼女の背中を見送った。


そして今、放課後の教室。


誰もいない教室で、俺は決意を固めていた。


《後悔だけはするな。》


今さっき届いた高野からのメールは、たったそれだけだった。


確か陽太も言っていた。


“俺さ?後悔したくないんだ”


二人の言葉が何度も何度も頭の中を駆け巡って。


手に握った、赤い小さなキャンディを。


やっとの思いで手放した。