勢いよくドアを開けると、案の定キミは泣いていた。


俺に気づくと慌てて涙を拭いて、笑って振り返った。


「今井クン……あっ、忘れ物?」


そうやって笑う顔も、どこか無理してて、ぎこちない。


そんな彼女を見て、何だかすごく辛くなった。


「泣いていいよ。」


それしか言えなかった。


背中を向けて泣きだしたキミに、俺は何もしてやれなかった。


ただ、思うだけ…


辛かったんだろ?


苦しかったんだろ?


誰にも言えなくて、一人で抱え込んで。


きっと、すごくつらかったんだろう。


それなのに、そんな顔一切見せないで、いつも以上によく笑ってたよな。


時々する、辛そうな顔に、俺だけは気づいてたよ。


何も知らない佐々木に、言いだせなかったんだよな?


自分も好きだって。


キミの失恋を嬉しいなんて思った自分が許せねぇよ。


この時俺は、何のためらいもなく大泣きする彼女をすごく愛しく想った。


そして同時に胸が痛んだ。


キミの塚田への想いを生々しく感じさせられた。


叶いそうもない片想いが切なく苦しい。


それでも、俺の前で素直に泣いてくれたから。


“ありがとう”って、今まで俺には向けてくれたこともなかった笑顔を向けてくれたから。


あの日から俺は夢を見てるんだ。


絶対に現実にはならない夢を。


叶わない恋が叶ってしまう。


そんな、バカみたいに幸せな夢を。