――あの日も、クラスの女子たちに誘われてカラオケに行く途中だった。
その頃の俺は、本当に最低だった。
相手の気持ちを考えることもなく、適当に遊びまわっていた。
そして、その日も誘われるままに途中で女と抜け出していた。
そんなとき、ふと、なぜか思い出したんだ。
借りた漫画を忘れてきたこと。
そのことに気付いた途端、気がそがれた俺は、からめられた腕をすっと解き、学校へと足を向けた。
学校に着くとまだ部活の時間で、多くの生徒がまだ学校にいて、すごく賑やかだった。
でも、昇降口からホームルーム塔に入ると、校庭や体育館、音楽室が騒がしいのに比べ、教室はかなり静かだった。
自分のクラスまで行くと、微妙に開いたドアから見えた一人の女子生徒の顔。
その時の、彼女の幸せそうな顔が今でも頭から離れない。
夕日を浴びて、赤く染まった顔はさらに赤くなっていて。
俺は、そのまま動けないでいた。
たぶん、見入っていたんだと思う。
彼女の綺麗な横顔に。
恋に堕ちて、失恋するまでの間は、10秒もなかったと思う。
教室に入って窓の外、彼女の視線の先を辿ると、そこにはアイツの姿。
切ないというキモチを初めて感じた瞬間だった。