「…。」

「無理しなくていいよ。」

上手く話せなくて、上手く…動けない。

そんなあたしの状態を知ってか知らないでか、コータローは決してあたしを急かさない。

シャラ……シャラ…

ただ、うつむいていても、コータローが近づいてきていることは、心地よいコータローの音がだんだん大きくなることでわかる。


「…清田さん。」

「コータロ……。」

それ以上、言えなかった……名前を呼ばれた瞬間、あたしはコータローの腕の中にいた。

「ごめん…。何か、泣いてるの見たら、こうしたくなった。」

あたしはうんと頷いてから、コータローの胸のあたりにおでこを付けた。

雨が、急に激しく降り出したけど、コータローの心臓の音が、少しずつあたしを落ち着かせていった。

コータローはしばらくこのままでいてくれて、あたしは良くわからない気持ちのまま泣きやんで、小降りにはなったけどまだ止まない雨の中を、コータローと歩いた。


ゆうちゃんが今日は日直で、担任の手伝いをしていたことなど知りもしなかったあたしは、コータローとの一部始終を見られていたなんて、気付きもしなかった…。