「下の名前教えてくれないの?」
「ええ」
「どうして?」
「どうして、ですか……」
言いたくないから。
名前に入るあの漢字が嫌いだから。
…それが理由でしょうね。
まぁ彼女には言いませんけど。
「今は言いたくない、それだけですよ」
「そうなの?
じゃあ言う気になったら教えてくれるの?」
「…さあ」
「さあ、って…」
「今は教える気、全くありません。
ところでキミ、授業は出ないのですか?
キミの成績だと先生に怒られてしまうのではないのでしょうか?」
彼女の成績はかなり悪い。
毎回のテストで最下位スレスレ。
…僕に合わせてサボるのは感心出来ません。
「無断早退してきちゃった。
桐生くんがいないと寂しいかなって…」
口を尖らせる彼女。
僕は無意識の内に足を止めてしまいました。