「なつみ」

この声の感じは……

そう思った瞬間、彼は優しく私の唇を覆った。

思った通りね?

あなたはキスをするとき、いつもとは違う声で、あたしの名前を呼ぶの。

とびっきり甘くて、切なくて、優しい声。

この記憶を、あなたの面影を、あたし、どうやって消せばいいの?

分からないよ。分かんない。

「でも、もう無理、なんだよね?」

最後に一度、念を押す彼の目には、あたしと同じように涙が光っていた。

こんなに好きなのに。

彼だって同じ気持ちでいてくれること、分かってるのに。

あたしたちには次はないの。きっと。

「超えられない、壁……」

悠ちゃんはそっと呟く。

彼の哀しい顔を見るのは胸が張り裂けそうだ。

今すぐ彼の頭をかき抱くようにして、彼を包みたい。

だけどそんなこと、できるわけない。

世界で一番大切なこのひとを、こんな表情にさせているのはあたしなんだ。