「菜摘」

彼は真剣な眼差しであたしを見る。

大好きな、こげ茶色に揺れる瞳。

私を呼ぶ声の旋律は優しすぎるほど。

あたしは守られていた。このひとに。

そしてあたしはきっと、守っていた。

このひとの、痛々しい心を。


あたしは涙をこらえるのが苦手よ。

あなたの前では。

止まらないの。

どうしてくれるの?


あなたは分かってるのね。

今にもあたしが泣きそうなこと。

必死で、我慢してること。



「ね、菜摘。俺、家族のこと話せたの、お前だけだった。だから、お前に甘えすぎてたのかも。ごめんな?ほんと……」



どうして謝るの。

あたしは嬉しかったのに。

あなたがあたしだけに、心を開いてくれたこと。

死ぬほど嬉しかったのに。



こらえていた、涙が出た。