本当のお兄ちゃんも末っ子の私にはすごく優しかったけれど。
慶兄さんに対する「好き」は、お兄ちゃんに対するものとは確かに違っていた。

家族として愛してもいた。

そして、きっと、ひとりの男性としても、愛していた。

彼は、たった一人、私の心をずっとずっと支配していた人だった。


今でもずっと、忘れない。

夕焼けの薄赤い光の中を、私が彼におんぶされてどこかへ行く姿。

それは私の脳裏に絵はがきのように残っている。

「文月?起きとる?」

「起きとるよー」

彼の背中で足をばたばたさせながら、私は笑顔で応える。

顔は見えなくとも、彼も笑っているのが分かる。

「なぁ、こないだ教えた歌、覚えとる?」

「うん!ふづき、覚えとるよ!」

「じゃあ、帰りながら一緒に歌わへん?」

「歌うー!」

よし、と彼は言ってから、せーの、と掛け声をかけた。

それを合図に私たちは歌いだす。