彼は最後にあたしに素敵な笑顔を向けて、エンジンをかけた。

耳を突き刺すエンジン音は、あたしの心にも強く響いた。

「悠ちゃん、気をつけてね…!」

彼は右手を軽く上げて、黒く光るバイクを発進させる。

走り去っていくまで、彼は一度も振り向かなかった。





振り返らなかった彼の背中。

あのエンジン音。






あたしはきっと一生、忘れないだろう。

またいつか逢える日を信じて、あたしは前へ、進まなければならない。





一粒だけ、涙が零れた。


それは、月の涙。


あたらしい明日へ渡るために、必要だったひとしずく。



彼を想って涙を流すことは、きっとこれからも何度もあるだろう。

だけど。

もう泣かないよ、と自分を励ますから。

どうかあの月から彼に届くのは、笑顔のあたしでありますように。



綺麗な綺麗な月の雫。

あたしを明日へ、連れてって?




・・・・・VOL.1 月の涙[完]・・・・・