彼は来週、アメリカへ旅立つ。

理由は知らない。

でもきっと、彼の複雑な家庭環境に関係があるんだろう。
きっとあたしたちが高校生だったころから、決まってたことなんだと思う。

だから彼は……

だから彼は突然、アメリカの大学へ行くなんて言い出したんだ。

同じ大学へ行こうって、ずっと約束してたのに。
同じ大学を目指して、一緒に勉強してたのに。

あたしは、彼の自分への気持ちが薄れたんだと思ったの。

あたしと離れても全然平気なんだ、って……そう思うことが、信じられないくらい辛かったの。

アメリカへ行っても気持ちは変わらない、そう言った彼に、遠距離は無理だと突き放したのは誰でもないあたしだった。

素直になれなかった。

離れてても平気なあなたとは違うのよ。

……そんなこと、思って。

ばかみたい。

本当は、誰よりも彼を好きだから、彼の近くにいたかったくせに。

あたしはただ、距離に負けただけだ。

悠ちゃんはそれを、「越えられない壁」だと呼んだ。
きっと、彼にとってじゃなくて、あたしにとっての。