「いいなー、かわいいなー。母さん、俺もやって、俺もー!」

 リディルの出来上がりを見たフェイレイがアリアに飛びつく。

「お前がやっても可愛くならん」

「なるもん。俺もリディルと母さんとおそろいにするんだもん!」

 頬を膨らませ、そう言って聞かない息子に嘆息したアリアは、あからさまに「面倒だ」と顔に表しながらモシャモシャと髪の毛をいじった。

 娘に対する丁寧さの欠片もない乱暴さで二つに結ってやると、短い赤い髪は彼の性格を表すかのように元気よく跳ねた。

「みて、リディルー! 俺もおそろいー!」

 一緒に鏡に映り、にこにこと笑うフェイレイに、リディルはしばらくの後、こくりと頷いた。

 そこへ外から帰ってきたランスが加わる。

「あれ、どうしたの、みんな可愛くなって」

「おおランス、お帰り」

「おかえり父さん! 見て見て、リディルとおそろいー!」

「あはは、フェイも? うん、可愛くなったねぇ」

「でしょでしょ?」

「リディルは母さんとお揃いの髪型、とても似合っているね。凄くかわいいよ」

 ランスの大きな手が、リディルの頭にぽん、と乗せられた。ほんの少しだけ首を竦めたリディルだったが、大人しくそのまま頭を撫でられた。これにはランスの方が驚き、そして少しずつ打ち解けていることに喜びを噛み締めた。

 それからリディルは満足げな顔をしているアリアを見上げ、桜色の唇を僅かに開いた。

「ん?」

 何か訴えようとしているリディルに気づいて、アリアが屈んだ。

 リディルはほんの少し視線を彷徨わせた後、アリアの目を見ながら唇を動かした。


『ありがとう』


 愛らしい桜色の唇は、そう言葉を象っていた。


「お……おお、おおおおおおー!」

 アリアは目を潤ませながら叫んだ。

 娘からの、初めての『ありがとう』。

 その初めての『ありがとう』から、妄想が始まる。