リディルは恐る恐る、年季の入った木製の鏡台の前に座った。

 大人しく言うことを聞いてくれたので、アリアは大歓喜した。たとえ今にも逃げ出しそうに姿勢が前傾していても、以前はすぐにフェイレイの後ろに隠れていたことを思えば、それは物凄い進歩と言えた。

「リディルはどんな髪型が好きだ?」

 問いかけてみると、僅かに首を傾げられた。

「そうか。では、母さんとお揃いにしてみよう」

 艶やかに光るハニーブラウンの髪に櫛を入れると、なんの引っかかりもなくするりと通っていった。

「むっ、なんと通りのいい。なにか特別な手入れでもしているのか?」

 リディルの首はまた僅かに傾いた。

 その小さな頭を支える細い首から肩にかけて、やけに力が入っているように見えた。

 髪を梳くついでに視線を下げてみれば、リディルは桜色の唇を真一文字に引き結び、膝の上で小さな手をギュッと握りしめていた。その視線は不安げに彷徨い、鏡越しにフェイレイへ向けられている。

 緊張させてしまっているのか……と少し申し訳なく思っていると、そんなリディルに気づいたのかそうでないのか、フェイレイがリディルのすぐ隣に座り、彼女の手を取ってにっこりと微笑んだ。するとリディルの肩や手から僅かに力が抜けた。その様子に安堵するアリア。

「リディルの髪、きれいだよねー。さらさらーって、気持ちいいの」

「確かに触っているだけで気持ちいいな。……ん? フェイ、お前、リディルの髪に触ったことがあるのか」

「毎日とかしてあげてるよー。リディル、朝、ねむそうなんだもん」

「そうだったのか。リディルは朝が苦手か。ふふ、それは知らなかったな」

「そうなのー? 母さんより、俺の方がリディルのこと知ってたねー」

 フェイレイは得意げに、ニイッと笑った。

「ふん、それはそうだろう。お前は母さんよりリディルといる時間が長いのだからな。むしろ知らない方が恥だ」

「知ってたからいいんだもーん」

 サラサラと髪をいじられながら、リディルは自分のことを話す親子の声にじっと耳を傾ける。先程とは違う、居心地の悪そうな顔でぎゅっと手を握り締め、もぞもぞとお尻を動かした。

 自分のことを話されているのがむず痒いようだ。