そんなわけで、ついうっかりリディルを怖がらせてしまい、今週は『娘とラブラブ計画』を推し進めることを休止しようと思ったアリアであったが、休日にしか会えないのに触れ合わずに終わってしまったら、好感度は上がるどころか下がってしまうかもしれない。そうなれば毎日一緒にいるランスとは大きく水を空けられてしまう。

 結果を急いではいけないことは分かっているのだが、自分だけ恐れられているのは寂しい。一人だけ仲間はずれな気分は、物凄く寂しい。

 ここは引いてはいけない。

 ランスとフェイレイに懐くリディルを、ドアの隙間から涙を流しながら眺めているだけなんて、絶対に嫌だ。

 アリアは自分が優しい人間でないことを自覚していた。息子のフェイレイは生まれた時から怖い母を見ているからまったく動じないけれど、あの繊細な少女には大声を出して接することは止めた方がいい。優しく、柔らかく、最大級に母性を溢れさせながら攻めていかなければならないのだ。



「リディル、おいで」

 フェイレイと一緒に散歩から帰ってきたところを捕まえ、最高出力で母親オーラを噴出しながら声をかけてみた。

 リディルはじっとアリアを見つめた後、一歩、二歩と下がった。……母性に満ち溢れた母親オーラを噴出しているはずが、隙あらば獲物に喰らい付く捕食者の目になっていたからだ。

「なーに、母さん」

 下がっていくリディルの代わりに、フェイレイが訊ねる。

「なあに、その髪をな。外に行く時は寒いだろうから下ろしていてもいいが、家の中にいるときは邪魔だろう。母さんが結ってやろうと思ってな」

「うん、わかったー。手を洗ってくるから待っててー」

 フェイレイはリディルを連れて手洗いに向かう。

 外から帰ったらまず手を洗う。躾の行き届いている様子にアリアは「うむ」と満足げに頷いた。



「さあリディル、ここに座ってご覧?」

 普段では有り得ないほど目を細めて笑うアリア。

 それを上目遣いに眺めたリディルは、助けを求めるようにフェイレイを見た。

「リディル、母さんが髪の毛結ってくれるんだって。ここに座ってればいいよ」

 リディルはそう言うフェイレイをジッと見つめた後、またアリアへ視線をやった。それに応えるように、アリアは笑みを深める。