「薪割りが見たいなら、そこの窓から見えるからさ」

 ふるふる、とまた首を振る。

「ここで見てるの?」

 こくり、と頷いた。

「寒いけど大丈夫?」

 こくり、とまた頷いた。

「そっか。じゃあ」

 フェイレイは頭に被っていた青い毛糸の帽子を脱ぎ、リディルの頭に被せてやった。少し大きくて、リディルの目まで隠れてしまいそうだ。

「これ、被ってるといいよ」

 ふるふる、と横に首を振り、リディルは帽子を脱ごうとした。それを押さえつけるようにして、フェイレイは笑う。

「大丈夫。俺は動いてるから、あったかいんだ」

 にこっと笑ってそう言うと、フェイレイはまた「よいしょっと」と斧を振り上げ、薪割りを再開した。

 リディルはそれを眺めながら、帽子を丁度いい具合に被り直す。冷えた耳がフェイレイの残したぬくもりに包まれた。リディルは薪割りを続けるフェイレイに、ペコリと頭を下げる。

 その様子をキッチンの窓から眺めていたランスは、微笑みながらパン生地練りに精を出す。

 リディルがアストラに来てからひと月ほど経過した。まだまだランスやアリアには懐いてくれないものの、フェイレイとのやり取りを見ていると心が穏やかになる。

 彼女の心も、同じく穏やかであれば良いのだが。

 生地を丸く型作り、釜の中に入れてから夕食のメイン料理に取り掛かる。今日は野菜のたっぷり入った具だくさんのシチューだ。フェイレイはもちろん、リディルも気に入ってくれたらしく、食の細い彼女が残さず食べてくれた数少ないメニューのひとつだった。

 早く体も、心も元気になれるように、ランスは毎日心を込めて食事を作る。




「父さん、おなかすいたー!」

 リディルと一緒に外から戻ってきたフェイレイが、玄関先から大声で叫ぶ。

「ああ、手を洗っておいで。もうすぐ出来るからね」

「はーい!」

 フェイレイが手を洗いに行くと、リディルもそれについていった。一緒に手を洗ってキッチンへ行くと、フェイレイは言われずともテーブルの上に3人分の皿を並べていく。今日はアリアがいないので3人分だ。

 それを一ヶ月の間ずっと見ていたリディルも、真似してフォークとスプーンを並べる。テーブルは少し高いので、背伸びをしながら一生懸命に。