「リディル、長旅で疲れただろう? 少しベッドで休んでいるといい。退院したとはいえ、しばらくは安静にするように言われているからな」

 アリアはキルトカバーごと布団をめくり、リディルをベッドに上げてやろうと手を伸ばす。

 それを見て、リディルがビクリと震えた。さっとフェイレイの背に隠れ、怯えた目でアリアを見上げる。

「リディル、だいじょうぶだよー。母さんは怖くないよ? いっぱい怒るから怖いけど、怖くないんだよ?」

 フェイレイが笑顔でフォローする。……フォローしているつもりである。

 しかしリディルはフェイレイの影から出てこなかった。アリアはランスと顔を見合わせ、困ったようにため息をついた。まだまだ家族になるには、過ごす時間が足りないようだ。

 これからだ。

 これから、たくさんの時間を過ごしていくのだ。だから焦ってはいけない。

「リディル、自分で上がれる?」

 フェイレイが問いかけると、リディルはこくりと頷き、靴紐を解いて靴を脱ぐと、ゆっくりした動作でベッドへ上がった。まだ筋力も体力も戻っていないので、それだけで少し疲れたように息をついている。

「フェイ、リディルは慣れないことだらけで不安になっているからね。しばらくは傍にいてやるんだよ」

 ランスの声に、フェイレイは大きく頷いた。

「うん、まかせてよ! リディル、俺がそばにいるから、だいじょうぶだからね? 安心してね?」

 ベッドに座ったリディルに布団をかけてやり、その頭を撫でてやるフェイレイ。

 笑顔を向けられたリディルの表情が変わることはない。けれども、心なしかほっとしたような、安心しているような顔にも見える。アリアやランスが話しかけたときのような怯えの表情が出ないのだ。それだけでフェイレイにだけは心を許していることが分かる。

「我が息子ながら、憎らしい」

 小さくアリアが呟くと、ランスがぶっと吹き出した。