大量の服の山をランスに押し付けると、アリアは王都の外れに住んでいる、最近結婚したばかりの弟の元へすっ飛んでいった。弟の戸籍に眠り姫を入れてもらうのだ。『兄弟』は駄目でも、『従兄弟』ならば婚姻に問題はない。

 しばらくして、弟のアーガイルの腕を引っ張ってアリアが戻ってきた。

 アリアと同じ赤髪に深海色の瞳の青年は、しかし彼女と違って優し気な印象だ。

 その義弟の左頬がパンパンに腫れ上がっているのを見たランスは、彼に同情した。アーガイルももうすぐ父親となるところなのに、実子よりも先に義娘が出来ることになろうとは。

「……ユイさんには、承諾を得たのかな?」

 義弟に義妹の様子を伺うと。

「大丈夫だ! お前が説得するだろう? なあ?」

 輝かんばかりの笑顔で、アリアが弟に話しかけた。

「……う、うん、がんばって説得するよ……ね、姉さんの頼みなら仕方ないさ……ハハハハ」

 アーガイルはどこか遠くを見ながら、乾いた声で笑った。

「すまないね、アルくん……」

 ランスはアリアの代わりに謝った。

「いいんですよ……僕は義兄さんほど丈夫じゃないし、勝てるわけないんですよ、この暴力女には……」

「なにか言ったか、アーガイル!」

「いえ、なにも!」

 ひいっ、と身を縮こまらせるアーガイルに、ランスはますます同情した。


 育てるのはあくまでもグリフィノー夫妻で、アーガイル夫婦には一切迷惑はかけない、という約束をして、きちんと納得してもらった上で役場で眠り姫の戸籍登録、及びID登録をしてもらった。

 ID登録は最近義務付けられたたそうで、この災害であまりにも身元不明者が出たため、固体識別が可能なマイクロチップの入った黒いバングルが支給されることになったそうだ。まだグリフィノー夫妻も貰っていないものだが、順次登録していくと役場職員から説明を受けた。

 戸籍の申請は案外すんなりと通った。食糧難もあり、他所の子どもを引き取れる余裕のある家の方が珍しく、アリアたちのような里親申請者は歓迎されていたのだ。