「……聞いて驚くなよ」

 少し開き直りぎみに、腰に両手を置き、ブライアンと向き直った。

「私の娘は、行方不明とされているリディアーナ=ルーサ=ユグドラシェル皇女殿下であられるのだ」

 一拍間を置いて、アリアを見つめるブライアンの顔に、みるみる畏敬の念が現れていくのが見て取れた。何事にも動じない有能な秘書でも、このように動揺することがあるのだな、とアリアはぼんやりと思った。

「な、な……!」

「驚いただろう。私はリディアーナ殿下を民間の中で育て、普通の娘として暮らさせてやりたいと思っていた。それが惑星王のご意思でもあった。だが……見ただろう、今の惑星王のお顔を。とても妹姫を歓迎している雰囲気ではなかったな。一体何が起きているのか、私にも皆目見当がつかん。だが、これだけは分かる」

 一呼吸置いて、アリアは自らも指先を冷たくしながら、ブライアンに言い放った。

「リディアーナ殿下を引き渡さなければ、セルティアは国ごと滅ぶらしいぞ」

 自分の責任で、国が滅ぶ。

 足元から崩れていきそうなくらい恐ろしい事態だった。強気に笑うその頬が恐怖にぴくりぴくりと痙攣する。本当に、笑い飛ばしてどうにかなるなら、大笑いしたい気分だ。

「……戦になるのですか」

「リディルを引き渡せば、そうはならん……かも、しれん」

「……西と南の国のことがあるからですね」

 有能な秘書は、徐々に冷静さを取り戻しつつあるようだ。眼鏡の淵に手をやり、くい、と持ち上げながら思考を働かせている。

「皇女殿下がここにいる経緯を詳しく説明してください。そして、貴女の知る真実を。時間がありません、手短に、迅速にお願いいたします」

 震えるアリアの心に気付いたのか。

 ブライアンは冷静にそう促した。