惑星王として、広く親しまれる自分たちの皇。けれど、身を凍らせるほどの冷たい視線は。国を、人を厭わないこの言動は。……これが、私たちの“神”だというのか。

 ……分からない。アリアはカインを知らない。エインズワース夫妻から、人々の噂話から、その人となりを知る程度だ。けれどもこれは違うのではないのか。リディアーナを護りたいと言っていた彼はどこへ行ったのか。アリアには分からない。

 それでも、国ごと滅べと言われてしまっては。

 アリアは彼を“敵”として認識するしかなかった。

「……分かりました」

 アリアは頷いた。

「しかし、今しばらく猶予を下さい。身元不明の17になる少女、でございますね。捜索いたします」

『一日だ。それ以上は待たん』

「承知いたしました」

 プツリと通信が切れ、カインの姿が消えてしまった後も、アリアはしばらく動けずに座り込んでいた。

「……支部長」

 気遣わしげに声をかけるブライアンに目をくれることもなく、アリアはただ、綺麗に磨かれた床に目を落としていた。

 どのくらい経ったか、アリアはスッと立ち上がると、ブライアンに命令を下した。

「エインズワース家に惑星王からのお言葉を伝えろ。それから、今から20時間後にフェイたちへ帰還命令を出せ。飛行艇を用意」

「はい」

「私はセルティア国王陛下と話をする。これより任務報告書は秘書官たちで処理しろ」

「畏まりました」

 ブライアンにそう指示を出し、支部長室を出ようとしたところで。

「支部長」

 ブライアンに呼び止められた。

「惑星王は一体何のお話をされていたのですか。そして貴女は何を知っているのですか」

 惑星王とのやり取りを聞いていて疑問に思ったのであろう。彼の声は硬かった。

 アリアは僅かに迷いを見せる。

 もう事態は動き出している。ギルドだけでなく国単位で責を負わなければならないかもしれない今、もう隠しておくことは出来ない。

 アリアは腹をくくった。