「また皇都なのか」

 その声に、アリアはやはり気づいているのかと、苦笑しながら頷く。

『ああ。……皇都から、次々に住民が逃げ出している。数年前から増税が半端ではないと聞いてはいたが。……今度は魔族が住みつきだしたそうだ』

「皇都に! ……一体、何故……」

『噂では、惑星王が呼び込んでいるのだとか』

「惑星王が?」

『何故そんなことをしているのか、私には分からん。重要なのはこっちだ。……長年牢に入れられていた宰相が、先日処刑された。民衆の目の前でな』

「──リディルは!」

『今は、フェイと一緒に任務中だ。エスティーナにいる』

 夫婦はそれきり、押し黙った。

 長い間、互いの視線を合わせようともせず、沈黙に耐え続けた。

 皇都で何が起きているのだとか、惑星王が何を考えているのか、そんなことは夫婦の考えの及ばない所にある。

 そして、娘として育ててきたリディルにも、関係のないこととして済ませてやりたかった。

 だが、それも出来そうにない。

 重い沈黙を、アリアが破った。

『皇都から命令書が届いた。今年17になる身元不明の娘を差し出せと』

 それを聞いたランスは大きく息を吐き出しながら目を閉じた。この状況でリディルを探しているのであれば、最悪の状況を想定しなければならない。

『ランス。私はどうしたらいい? リディルは私の娘だ。だが私は……数多いるセルティアの傭兵たちを危険に晒すわけには……いかんのだ』

 アリアは頭を抱え込む。

『今の惑星王は容赦ない。逆らえば、街のひとつくらい、簡単に吹き飛ばす。……それを許すわけには、いかぬ……』

 こんなに弱った妻を、ランスは見たことがない。ランスは掛ける言葉を失う。

 どうしたら良いのか。

 どうすれば最善なのか。

 長い長い沈黙が訪れる。