リディルを引き取るときに、セルティア国に迷惑をかける事態を引き起こすかもしれない可能性があることは分かっていたはずだった。星府軍を相手に戦争になるかもしれないと。

 それでも見捨てることが出来ず、覚悟をしてその身柄を預かって、可愛がって、今まで育ててきた。そこに後悔はない。

 けれども、惑星王に逆らったとして滅ぼされたターニアとグルトス。それと同じことがセルティアにも起きるかもしれないとなると、アリアはどうするのが最善なのか。

 惑星王の望む通りにリディルを差し出せば良いのだろうか。そうすればすべて丸く収まるのだろうか。

 エインズワース夫妻の話によれば、惑星王は慈悲深い、聡明な皇だ。妹のことも憎からず想っているという。

 けれども今の惑星王は?

 税率を引き上げて民を苦しめ、魔族を呼び込み、星府軍を動かして国を滅ぼしているのが本当に惑星王だったとしたら?

 そのとき、アリアはどうすべきなのか。


 唯一相談出来るエインズワース夫妻も、クラウス王も、魔族の対応で忙しい。今アリアが頼れるのは夫のランスだけである。

 だがランスは弱り切っている。余計な心配をかけたくない。一人で対処していかなければならない。

 そう思い、現在の魔族増加状況をパソコンのモニターに映し出してみる。各地の被害状況も確認する。

 それが頭に入ってこない。

 アリアは駄目だ駄目だと思いながらも、ランスへ通信を送る。




 正午に定時連絡を入れると言っていたのに、真夜中に送られてきた通信に、ランスは寝袋から気だるげに身を起こし、一つだけ深呼吸をしてから通信ボタンを押した。

「……アリア?」

 なるべく元気に見えるよう、穏やかに声を出せるよう、気を遣いながら妻の名を呼ぶ。

『ランス……』

 案の定、アリアは弱り果てた顔で、ランスを見つめていた。

「何か困ったことが?」

『ああ』

 アリアは力なく頷いた。

『魔族の増加が止まらない。天変地異はあと数週間もしないうちに始まるだろう。止めることは出来ないかと色々手を打っているのだが……どうしても駄目だ。10年前と、何もかも同じ……」

 このままでは精霊たちが暴れだす。天変地異が巻き起こる。

 そして……セルティア国には更なる災厄が降りかかろうとしている。