「リディル……何か、“思い出した”のか?」

 もしかして記憶が、その一部でも戻ったというのか。“リディアーナ”は皇宮で育ったわけではないが、精霊召喚術は教えられているはずだ。

『……何も』

 リディルは小さく頭を振った。

「……そうか」

『え、何? 何で?』

 何故アリアがそんなことを言い出したのか分からない息子が割って入ってくるが、それをジロリと一睨みして黙らせて。

「どうやって女王を召喚した? 女王召喚は、教えていないはずだ」

 そう訊ねると、リディルは床に視線を落とした。

『どうして出来たのか分からない。でも……出来ると思ったから、やった』

 思い出したわけではないが、体が、血が覚えている、ということなのだろうか。……フェイレイもこんな怪我を負っているし、ヴァンガードにも危機が迫っていたのだろう。そんな状況下で、無意識のうちに力を使ったようだ。

 何にしても、他の者が見ていないところでの出来事で良かった。

 アリアはフェイレイとヴァンガードに緘口令を敷き、女王召喚の出来る者を隠し通すことにした。

 けれど。

 けれど──。

 包囲網がどんどん狭められてきているような気がしていた。

 ブライアンが纏めてくれた皇都民の証言の数々は、惑星王が凶行に走り、都を荒らし、星府軍を使って国を滅ぼしているようにしか見えなかった。

 信じたくはない。

 けれどギルドの諜報部隊からの報告からも、そう言えるほどの材料が揃いすぎている。

 その惑星王は何をもってリディルを探しているのか。

 考えたくはないが、もう逃れられないところまできているのではないだろうか。

 戦争が、始まるのではないだろうか。