「うん、実はね。嬉しかったよ、颯斗の言葉。」
「なんだよ、おまえ…」
少し照れた顔であたしから目を外す。
あたしを屋上に初めて連れてきて、チケットを渡してきた時と同じ顔。
あれからもうすぐ1年経つんだよね…
たった1年だよ。
颯斗はこれからどのくらいアメリカに行くのだろうか。
いつ行くのだろうか。
何も分からない。
でもね、今は何も考えずに颯斗と2人でいて、幸せな時間を過ごしたいの。
「あの時言ってたこと、全部ほんとだよね?」
「なんだよ、それ」
照れてるのか、少しぶっきらぼうになる颯斗。
「今でも同じ気持ちでいてくれてる?」
「…あぁ。」
「もう1回言ってよ!あの時、颯斗の顔見えなかったんだもん。」
「はぁ〜?」
思いっきり嫌な顔する颯斗。
でもすぐに笑顔になって、
「愛してるよ。」
「ふふっ、あたしも。」
そう言い合って、お互いの唇が重なる…
離れている時間、それもちゃんとあたし達の為になってるよね?
「あたしも、じゃなくてさ…莉奈もちゃんと言葉で言ってよ。」
唇が離れたと思ったら、こんなことを言ってくる。
愛してるって言ってって?
普段だったら絶対に言わないけど、今日は特別…
「颯斗…、愛してるよ…」
「よし、えらいっ!」
そう言ってまた唇を重ねてくる。
幸せすぎる…
離れたってもう大丈夫。
住む世界が違うなんて、これからは絶対に考えないよ。
あたし達は同じ世界に住んでいるもんね…
ふぅー。
鏡に写る自分を見て、深呼吸する。
服も髪型もばっちり。
昨日たくさん泣いて、腫れてしまった目も全然大丈夫。
最後じゃないけど、送り出す時くらい可愛くしておかないとね!
そして今日は泣かないの。
笑顔で颯斗を送り出すの!
今日は颯斗がアメリカに発つ日。
4月、5月、6月、7月、と月日は過ぎて…
今日も夏休みが終わる8月の最終日。
颯斗がアメリカに発つ今日まで、アメリカに行って会えなくなってしまう分をちゃんと充電するかのように、
あたしと颯斗はたくさん思い出を作った。
毎日の昼休みの時間はお弁当を一緒に食べて、
公園に行ったりもした。
遊園地にも遊びに行った。
普通のカップルみたいに、ショッピングモールに行ってプリクラを撮ったりもしてみた。
あと、仕事ばっかりの時は、仕事終わりにあたしの家まで来てくれたこともあった。
颯斗のお家にも遊びに行ったね。
もう寂しくならないくらい、たくさん思い出できたよ。
大丈夫…
あたし達なら大丈夫。
〝 あたし達なら大丈夫。〟
〝 俺達なら大丈夫。〟
この言葉がいつの間にか、あたし達の口癖になってた。
たくさん離れたあたし達だもん…
絶対に大丈夫だよ。
颯斗が帰ってくるのはいつになるか分からない。
でもね、いつになっても…おばあちゃんになったとしても、ずっと待ってるんだ。
颯斗がアメリカに行くことになった理由…
それは多分あたしのせい。
颯斗はあたしのせいなんかじゃないって何度も言ってくれた。
だけど、多分熱愛報道が出たせいで、颯斗の人気が少し落ちたのを回復させるために、アメリカにいくことになったんじゃないのかなって思うの。
噂でも少しそんなことを聞いたし。
颯斗がアメリカに行ってる間、princeは活動停止。
別々に行動して、個人の実力をもっと上げていくんだって。
颯斗の熱愛報道が出て、蓮くんにも熱愛報道が出ちゃったから、princeの人気も少し落ちてしまっていたからかな…
princeが活動停止ということに対して、たくさんの反対意見があったみたいなの。
でも颯斗は言ってた
「俺らの本当のファンでいてくれるなら、何年経ったとしてもファンでいてくれると思うから。」
って…
かっこいいよね…
ほんとにそうだと思った。
あたしも颯斗とどれだけ会えなくたって、颯斗のこと大好きでいれる自信あるもん。
……少しは、不安になっちゃうけどさ。
「莉奈ー、そろそろ行く?」
「あ、うん!ごめんね〜ありがとう!」
今日、颯斗がアメリカに発つのを送りに行くのに、お姉ちゃんに空港まで送ってもらうことになってるの。
お姉ちゃんも高校を卒業して、車の免許をとったからね。
颯斗を送るっていったって、あたしが送ることが出来るのは、目立たない隠れている場所。
颯斗がアメリカに発つ日は報道されているから、報道陣が空港に集まってる。
princeのメンバーは、報道陣の前で送ったり出来るけど…
さすがに、あたしはね。
栞達は、颯斗のプチお別れパーティーの時にお別れしたから、今日は来ない。
あたしが今日空港に行くのは、颯斗くんを見るためだと言ってる。
トイレに行くフリして、しっかりと会うんだけどね?
お姉ちゃんに送っていってもらうというか、お姉ちゃんもあたしが頼まなくても、空港に行ってただろうけどね。
「目の腫れ目立たないね。莉奈がそんなに颯斗くんのファンになるとはね〜。そんなに悲しいかぁ〜」
車に乗り込むと、そんなことをお姉ちゃんに言われた。