国民的アイドルと恋しちゃいました。


「応援するに決まってるよね。」

「あんなに颯斗くんに愛されてる彼女さんが羨ましいよー。いいなー。」

「あたし達のことも愛してくれてるならいいもんねっ。」


イベント会場にいたファンの皆が、帰りながら話している言葉が聞こえてきた。


「莉奈、帰ろっか?」

「…うん。」


ファンの皆と一緒に来た栞に声を掛けられて、来た道を帰っていく。


嬉しかった……

颯斗の言葉、全てが嬉しかった。


“愛しています”

2人の時に言って欲しかったよ。

……そんなの言い訳。

どこで言われたって、誰の前で言われたって、あたしに向けて言っている言葉というのに変わりない。

ほんとに、嬉しかった。

「莉奈、颯斗くんと……っ」

「いや、ううん。」


栞が言う言葉が、なんとなく分かってしまって…

首を振って否定した。


“より戻すの?”って言おうとしたんじゃないかな…


あたしは、颯斗とより戻さないよ。


愛しています…それはあたしも同じだよ?


それに、あんなのをあそこで言うなんて、絶対に社長さんとか色んな人から怒られちゃうのに、言ったなんて…

すごい勇気がいることだよね。


でも、やっぱりだめだよ…

颯斗とは付き合えない。


あたしがあそこで聞いてること、颯斗は知らないよね?

なら大丈夫だよ…ね…

「もう逃げないでよ!莉奈…」


逃げてるだけだって、そんなの分かってる…

でも、……
怖いんだもん。

颯斗と付き合いたいよ?

でも、なぜか体がダメだって言って聞いてくれないの。


…そんなの言い訳だなんて、分かってるんだけどね。



「ごめんね、栞。じゃあ、また明日ね。」


無言のまま家に着いて、栞に笑顔で告げる。

栞は涙目で、とても悲しそうな顔をしながら手を振って帰って行った。


パパもママもお姉ちゃんもいない。

誰もいない家に「ただいまー。」と告げて、部屋に入りワンワン泣いた。

固く決意をしながら、いつの間にか眠りについていた。

あれから高校1年生は終わり、春休みになり…

今日からあたしは高校2年生になる。


あの日の出来事はテレビで大々的に報道されて、また颯斗は学校に来なくなった。

今日からは来るんだろうな…

あたしの通っている高校は3年間クラス替えがないため、嫌でも颯斗と隣のクラスというわけ。


嫌でも、なんて言うけど…
ほんとはちょっと嬉しい。


春休み中は誰とも遊ぶことなく、家でゆっくりして過ごした。


そしてまた固く決意した。

「莉奈ー、おはよう!担任の先生、誰になるかなー?」

「おはよう!とりあえず、楽な人がいいなっ」


いつもと変わらずに話しかけてくる栞。

そうやって2人で笑いながら話してると、優花と紗羽もやってきた。


「おはよう!また4人で高校2年生楽しもうね〜!!」


優花も何も変わってなかったから安心した。


「ねえ、聞いた?担任の先生…赤井先生らしいよ。」

「「えぇー!!!」」


紗羽の言葉に、あたしと栞が驚く。

「優花と一緒に教室来てる時にさ、先生達の会話が聞こえて…
B組は俺が1年間責任もって!とか言ってて…」

「嘘でしょ、」


紗羽の言葉にあたしは絶句する。


赤井先生とは、とても熱血な先生で…

楽な先生とは反対のとてもめんどくさい先生。

何かのドラマに憧れてるのか知らないけど、とても熱血で、赤井先生が担任になると楽しいけど1日1日疲れるというのを聞いたことがある。


高校2年生はなるべく平凡に静かに過ごしたいと思っていたのに…

違う意味で、平凡じゃなくなっちゃうよ。

「あ、あとあたしもう1つ、ビックニュースを聞いた!」


皆がショックで何も発さなかったところで、突然優花が話し始めた。


「え、なになに??」


栞が興味津々な顔で、優花に近付く。


「もー栞近いー。あ、あのね、噂なんだけど、颯斗くんがアメリカにいっちゃうんだって!」

「え……」

「優花、それってほんとなの?」


栞が絶句して、紗羽が問いただす。

あたしは、言葉も出ず、息もちゃんと出来てるか分からない。

嘘でしょ?

アメリカに行くなんて、嘘だよね?

どうして……、

「噂だから分かんないけど…」


「莉奈?大丈夫…?」

「まだ噂だし、分かんないから…」


栞に、紗羽、…


「あ、あたし…ごめん!でも、莉奈、ほんとは颯斗くんのこと大好きなんでしょ?大好きならアメリカなんかに行っちゃう前にちゃんとよりを戻さないと…!大好きなら大好きだって言うべきだよ!」


優花まで…


皆が言いたくても言えなかったことを優花が言った。

皆、ごめんね…


「莉奈…、莉奈はもう気付いてるよね?今莉奈がやるべきこと。」


紗羽が優しくあたしに語りかける。

…颯斗としっかり話すことだよね。


「颯斗くん、さっき屋上に行く所をあたし見たよ!担任分かったらメールするね!」


栞がそう言う。



「あたし……行ってくるね。
栞、優花、紗羽…ありがとう!」


1人1人の顔を見てそう言ったあと、走って教室を出た。



ちゃんと話す。


あたしはまだ颯斗が好き。

大好き。

それをしっかり颯斗に告げるの。