その記事の内容は、
あたしが颯斗にほぼ告白をされた体育大会のことや…
ぼかしてはあるけど…あたしの写真と、iさんというイニシャルで表されて、細かくあたしの説明や…
あたしの中学校、そして中学時代には仁と付き合っていたことまで…
詳しく書かれていた。
そしてコメントの所には、ほかの記事には100件も満たないのに、300件以上きていた。
あたしは1件1件しっかりと読んだ。
内容は…応援するといったのもあった。
でも、
『あたしの颯斗くんを取らないで!』
『なんか神崎颯斗、絶望した。』
『princeのファン全員が不愉快。たとえ颯斗くんの彼女だとしても許せない。ファン全員に謝れ。』
『ファンがいるからこそ僕達がいるって言ってたのに…颯斗くんショック!』
『颯斗くんは皆のなのに。独り占めしないでよ!』
こういう内容の方が明らかに多かった。
『颯斗くんの選んだ人なら絶対可愛くて良い人に決まってる!』
『颯斗くんのファンだから、ずっと応援してます!付いていきます!』
といったコメントに励まされたりもした。
でも、批判するコメントの方が圧倒的に多くて辛くなるばかりだった。
…やっぱりあたし、
あたしには颯斗の彼女なんてダメなんだよ。
コメントにあったみんなの言う通り。
あたしは普通の高校生…
颯斗だって普通の高校生だって栞に言われたけど、やっぱり住む世界が違う。
あたしは検索していた画面からメールの画面に移り、メールを書く。
嘘ばかりの言葉を並べて…
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✉颯斗
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颯斗、別れよう。
あたしもう颯斗のこと好きじゃない。
もうあたし、颯斗とは会えない。
会いたくない。
顔も見たくないから。
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送信する。
【✉を送信しました】という表示が出て、もう終わりなんだ。って知らされたみたいで涙が溢れ出てくる。
自分から別れを告げたはずなのに…
颯斗はこのあたしのメールを多分信じないと思う。
でも…あたしには、princeの何万人というファンの皆を不幸にしてまで自分が幸せになる勇気なんてない。
だから、颯斗を突き放すしかないの…
颯斗…ごめんね。
大好きだよ……今まで出会った誰よりも。
大好き …“でした” 。
『一緒に食べよ?』
こっちに向かってチョコレートのアイスバーを持ちながら、こんなことを言うテレビの中の国民的アイドル…神崎颯斗。
最近、もうバレンタインデーが5日後ということでチョコレートに関するCMが多くなった。
颯斗が出演しているチョコレートのCM、あたしが見た中でこれが4つ目。
こんなのあたしが知ってる颯斗なんかじゃない、と思いつつも颯斗が出てるCMやテレビ番組をしっかりと見てしまう。
颯斗は、あれからまだ1度も学校に来ていない。
そして、
……メールの返信も来ていない。
心のどこかで颯斗からの「別れたくない」という返信を待っていたあたしだけど…
こんなにも返信が来ないということは、そういうことなのだろう。
あれから学校で栞や優花、紗羽…他にもいろんな子に声をかけられて励まされた。
あたしはそんな子達に心配かけないように、笑顔で「大丈夫だから」と言った。
そして…別れたことも告げた。
栞、優花、紗羽、この3人は他の子達が「どうして!?」って聞いてくるのに対して、何にも聞いてこなかった。
別れたことを聞いて励ましてくれる子も多かったけれど、喜ぶ子も少なくは無かった。
そんな風にあれから約1ヶ月が過ぎて…
もう颯斗のことを忘れた。と言ったら嘘になっちゃうけど、少しは立ち直れたと思う。
『ねぇ…これ…』
『…ん?え、これ僕にくれるの?』
『…うんっ。』
『ふふっ、ありがとう。』
『『あなたも勇気を出してチョコ渡してみてね!キャンペーン実施中!』』
次は人気女優の橘史穂‐タチバナシホちゃんと颯斗のCMが流れ出した。
このCM…何回見たかな?
それほどたくさん見てる。
颯斗の熱愛報道は、もう少しは冷えてきてる…
でも颯斗がまだ学校に来てないことを考えると、まだ颯斗の事務所は警戒してるのかなって思う。
バラエティ番組で颯斗の熱愛について触れることも決して許されないっていうのも聞いたし…
それに、颯斗には学校に来てもらわない方がいい。
また颯斗に会うと、好きって思わず言ってしまいそうだから…
テレビに出ている颯斗を見るだけでも胸がギュッてなるのに。
今、会ってしまったら全て台無しになっちゃう。
……とは言っても会いたいっていうのが本音なんだけどね。
「莉奈、おはよーん!」
「栞ー、おはよ!」
いつもと変わらない朝。
栞があたしの家まで来てくれて一緒に学校に行く。
「ねぇ、見た!?昨日の映画!観に行けなかったしテレビであって良かった~。それにしても秀平先輩かっこ良すぎだよね!」
「あ、見た見た!」
昨日、体育大会の練習期間中に秀平先輩がフランスで撮影していた映画がテレビで放送されたのだ。
「あの秀平先輩のキスシーン…あれは凄かった。親いたけどキャーキャー言ってた。」
「あははっ、お姉ちゃんもすごい叫んでた。」
お姉ちゃんは映画が放送されるまでにいつもダラダラして終わらない宿題をさっさと終わらせて、何もかも終わった状態で放送されるの待ってたからね…
キスシーンとか「見たくないー!!」って言いながらも見て、叫びまくってた。
「友情出演で蓮くんと颯斗くんも出てたよね!」
「…うん、出てたね。」
栞の口から颯斗くんっていうワードが出てきて、ちょっとビクッとした。
映画をお姉ちゃんと見てて、いきなり颯斗が出てきた時はすごいびっくりした。
その時ちょうど雰囲気出すためにって買ってきたポップコーン食べてたんだけど…
喉につまらせちゃったもん。
「出てきた時びっくりしたな~。
てかさ、……あ。」
「うんうん。…ん?栞?」
「莉奈、ちょっ!後ろ向かないで…」
あたしが後ろを向こうとした途端、栞に止められた。
「え、どうしたの?」
「莉奈は、さ…」
「…う、うん。」
「莉奈は、まだ颯斗くんのこと好き?会いたい?莉奈って言って颯斗くんに抱きしめてもらいたい?」
…当たり前じゃん。
でも、
でもあたしと颯斗の住む世界は違うの。
神様、ごめんなさい。
今だけ嘘をつかせてください…
「好き、だよ。でも、会いたいとは思わないし、抱きしめてもらいたいとも思わない。」
「……そっか。
じゃあは、今日は学校サボろ!!
あ、あと、お昼からどこかでイベントあるみたいだから…それに行こっ!」
「…え、?」
「いいでしょ?」
「う、うん。」
あたしは栞が何を考えてるかというのも考えずに、うんと返事をしてしまった。
今日が何の日かというのも、考えずに。