国民的アイドルと恋しちゃいました。


その中でも1番人気の神崎颯斗くんは、アメリカでもたくさんのファンがいて、俺でも知っている。

…他のメンバーは顔と名前は分かるけど、あまり一致していない。


「どうかしたか?」


というか、そもそもなんでこんな大人気アイドルが俺なんかに話し掛けるんだ?


「話があるんです。屋上に来てくれないかな…?」


この笑顔に世の女性達はキュンキュンさせられるのだろうか…

俺でもかっこいいと思ってしまったのだから、そうなんだろうな。

そしてそれから屋上に行き、ベンチには座らずに立ってグラウンドを眺めながら話をした。

「単刀直入に話しますね。僕、長谷川さんと莉奈のことを水野さんから聞いてるんです。」

「…そうなんです、か。」


神崎颯斗くんが莉奈のことを呼び捨てで呼んでることに、少し違和感を感じた。


「はい。それで今、僕と莉奈は付き合ってます。莉奈はしっかりと前を向いて歩いてます。」

「………」


何にも言えなかった。

神崎くんは莉奈と付き合っていて、前を向いて歩いてる。

そう言っている神崎くんの目が真剣で、俺を少し睨むような感じであったから。


「莉奈に会うな、とは言いません。でも、例え世界的に有名なモデルさんだとしても、莉奈を泣かせたり辛い思いをさせるようであれば…もう二度とモデルの仕事なんかできない顔にしますから。」

神崎くんの目には迷いは無かった。


「…分かったよ。でも、莉奈に会って、本当のことを伝えることは許してくれ。」

「僕は、莉奈を泣かせたり辛い思いをさせたりしなければいいと言ってます。僕に莉奈と長谷川さんのことをどうこう言う権利はありませんから。」


神崎くんの顔は王子様を保ったまま、目でしっかりと真剣な思いを伝えてきた。

こんな風に莉奈を真剣に思っていてくれてる人がいて良かった…

本当に心の底からそう思った。

俺なんかじゃなくて、神崎くんに莉奈を幸せにしてもらってほしい…

そうとも心の底から思った。


これが俺の本当の気持ちで真実。

「…俺、ほんと後悔してる。でも、莉奈が前にしっかりと進めてて良かった……ほんとに莉奈、ごめんな。」


あたしの知らない過去がたくさんあってびっくりした。

正直なこと言うと、少しホッとした部分もあった。

仁が少し涙ぐみながらずっと話すもんだから、それを見てあたしも辛くなって、仁が泣く前にあたしが泣いてしまった。

仁は「ごめんな」って何度も言うけど、そんなに謝らないで欲しい…


「…ありがとう。仁、もう謝らなくていいよ?」

「莉奈…俺はその優しさにどれだけ救われてきたんだろうな。ありがとう。」


あたしが前に、仁に
〝 ごめんって謝られるよりもありがとうって言ってもらえた方が嬉しいな。時と場合に寄るんだけどねっ!〟
と言ったことを覚えていたのかな?

謝るんじゃなくて、ありがとうって言ってきた。

「ふふ、どういたしまして。」


ありがとうって仁に言われた時はこう返すのがいつの間にか当たり前になってた。


「…おう。これから莉奈は、神崎くんに守ってもらうんだぞ?」

「うん…」


颯斗は仁に色々言ったらしい。

詳しくは教えてくれなかったけど、颯斗は真剣にあたしのことを想ってくれてるよって仁が言ってくれた。

仁が言うように、これからあたしは颯斗に守ってもらう。

…でも、颯斗に守ってもらえるようになったのは仁のおかげでもあるんだよ?


「…仁、ありがとうね。」


色んなことを込めてのありがとう。

「あたし、仁のこと大好きだったよ。あんなことがあっても、仁のこと嫌いになんてならなかった。だから、仁はあたしに酷いことをしたとか思わなくていいから。あたしにとって、仁とのたくさんの思い出…全部全部いい思い出だから。」


本当のあたしの想いだよ。

ずっとあたしだけが苦しんでるんだって思ってた。

でも、本当は仁の方が苦しんでいて…辛そうだった。

仁のことをずっとずっと忘れようとしてきたけど…こうやって本当のことを仁が教えてくれたからこんなふうに思えた。


「…ありがとう。莉奈、本当にありがとう。」


こう言ってあたしの大好きだった笑顔を見せてくれた。

あんなに大好きだった笑顔や仁の声とか全てを、あたしはずっと忘れようとしてきた。

でも、忘れなくていいんだよね?

仁との思い出があるから、今のあたしがいるんだもん。

あたしはそう思うから。

キーンコーンカーンコーン


「莉奈、廊下に颯斗くん来てるよっ!」


前に座ってる優花が後ろを振り返ってこう言ってきた。

仁と話してから、あっという間に今日の学校が終わった。

仁とのことは5時限目をサボって、4人に屋上で話した。

4人とも泣きながらあたしの話を聞くもんだから、あたしまで泣いちゃって…4人とも目を真っ赤にしながら教室に戻ったんだから。

…って、それにしてもなんで颯斗がいるんだろ。

色んなことを考えながら廊下にいる颯斗のところまで行った。


「来るの遅い。」

久しぶりに颯斗の声を聞けて、やっぱり颯斗が好きだなって思ってしまう。


「うそ、そんな遅くなかったでしょー?」

「遅かった。」

「遅くなかったってば!」

「…はいはい。」


てか、颯斗ってばなんであたしに会いに来たのかな?


「今日一緒帰ろ。」

「……へ?…」

「だーかーら、一緒に帰ろうって言ってんの。」

「え…?」


颯斗の言ってる意味が分からなくて何回も聞き返してしまう。

「水野さんに今日莉奈と帰る許可は貰ってるから。いいだろ?」

「…え、えっと、」


帰るのがだめなわけがない。

…でも、今日颯斗は仕事に行ってるって聞いてたのを今思い出した。


「なんだよ。そんなに一緒に帰るのが嫌なのかよ。」


ちょっとふてくされながら言う颯斗。

そんな顔でさえも可愛いと思ってしまいちょっとからかいたくなってしまう。


「ううん、そんなことない。一緒帰ろ!」


そうあたしが言った途端、颯斗はすぐに笑顔になる。

テレビで見るような王子様の笑顔じゃなくて、颯斗の本当の笑顔で。