国民的アイドルと恋しちゃいました。


…なんでかな?

嬉しいわけじゃないのに。

迎えに行かないといけない人がいるからというのを聞いてから、溢れ出てくる涙が止まらない。

嬉しいわけじゃないの。

だってあたしには、颯斗がいるもん。

これから誰も好きになれないだろうなって思ってたのに、好きになれた人がいる。


「……莉奈」

「…ん?」


涙を拭いて、栞の顔を見る。


「莉奈の好きな人は誰?」


……好きな人。

栞に問われて、あたしの頭に思い浮かんできた人はたった1人。


「…颯斗、だよ。」


颯斗に決まってる。

確かに、仁のこと大好きだった。

1年間ずーっと待ってた。

仁と過ごした1年間はとても大きなもので、仁を忘れるのにも時間が掛かった。


…でもね。

そんなに時間が掛かった想いだったのに、颯斗に出会ったらすぐに消えたの。

颯斗と過ごした時間よりも、仁と過ごした時間の方が多いのに。

颯斗の存在の方がどんどん大きくなっていったの。


「そうだよね。なら、莉奈はそれを忘れちゃダメだからね。きっと、颯斗くんも仁くんが来て…不安だろうから。」


颯斗はあたしと仁のことを知ってる。

そうだよね…

自分の彼女がずっと想ってた元彼が突然同じ学校に転入なんてしてきたんだもの。

あたしだったら、ものすごく不安になる。

「うん。颯斗を不安にさせないように、あたしは笑顔でいるよ。」

「そっか。良かった!」


涙を拭いて、栞に笑顔を見せたら、栞も笑顔であたしを抱きしめてくれた。


「あたし、仁くんのこと…莉奈に伝えてよかったよね?」

「うん。よかったよ。栞、ありがとね。」


多分、栞はすごく不安だったんだと思う。

あたしが仁に振られた時とかに、ずっと隣であたしを見てきた人だから。


「…良かった。」


そう小さく栞が呟いた。


キーンコーンカーンコーン


3時限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「戻ろっか?」

「うん!戻ろうっ!」


笑顔で、さっきの涙は無かったのように栞と教室に戻った。

栞と屋上で話してから2日経った。

あれから仁から話し掛けられることはなくて。

というよりそもそも、転入してきた日も午後から仕事ということで早退して、この2日間も学校に来てなかった。

…でも、今日は来てるみたい。

仁は世界的に有名になっていて、日本の中でも老若男女から好かれてるらしい。

どれも優花情報なんだけど。

優花って、どこでそんな情報を手にしたの?っていうくらい情報を持ってる。


「あたしが思うには、仁くんが日本に戻ってきたのは……待たせてる彼女がいるからだと思うんだよね。中学時代にすごくラブラブな彼女がいたらしいもん。」

って優花が言った時は死ぬかと思うほどびっくりした。

あたしと同じ中学だった人達は、仁とあたしの過去を誰も話そうとはしない。

なのに、優花が知ってるって…やっぱり優花はすごい。

どこでその情報を手に入れたのかは話してはくれないんだけどね。


「莉奈、優花。お弁当食べよー!」


栞と紗羽があたし達の席まで来てくれた。

もうあっという間にお昼休みになった。

いつもは颯斗と食べてるお弁当だけど、颯斗は昨日からアメリカの方で映画を撮ってるから、栞達と昨日から食べてる。


「うん!食べよ食べよ!」

「今日もまた莉奈は手作り?やっぱり、莉奈はすごいや。」


優花と紗羽が話してる。


「一ノ瀬さん。」


“そんなことないよ!”って否定しながら楽しく話してたら、木下さんが話し掛けてきた。

木下さんこと、木下咲里‐キノシタ エミリさんはクラスの学級委員長で真面目で芸能人なんかに一切興味ないです。と言った感じの優等生な子。

そんな木下さんがあたしに話し掛けてくるなんて思ってもなかったからびっくりした。


「…ど、どうしたの??」


あたしも、あたしの周りにいる栞達でさえもびっくりしている。


「長谷川くんという人が一ノ瀬さんを呼んでるから…。廊下で待ってるって。」

「……え、…」

「…木下さんっ!あ、ありがとう!」


あたしが木下さんの言葉に戸惑ってたら、栞が木下さんにお礼を言ってその場から帰してくれた。

「…栞っ、どうしよう…っ。」


体がものすごく震えてて、怖い。


「…大丈夫!莉奈、ちゃんと自分の気持ちを強く持つんだよ。ほら、早く行かないと。」

「……っ、うん。」


しっかりと栞が目を見て言ってきたから、少し体の震えが治まった。

そして、栞に立たされて…背中を押されて…廊下まで歩いて行った。

クラスの人は仁があたしを呼んだことに驚いて、あたしの同じ中学だった人達はなにか心配そうに見てる。

そうして、教室を出て廊下にいる仁と約2年ぶりに再会した。

「ごめんな、いきなり呼んだりして。」

「…ううん。だ、大丈夫。」


あたしの目の前にいる仁は、十分高かった身長はもっと伸びて、顔も声も体も全てが大人になってた。

今は違うにしろ、前は大好きで愛してた仁が目の前にいることがなんだから信じられなくて、目を見ることが出来ない。


「久しぶりだな。莉奈、元気だった?」

「え?…うん。元気だったよ。」


久しぶりの仁の、莉奈って呼ぶ声に体がすごく反応した。


「そっか。はぁー…、なんかみんな見てるな。屋上とかに移動する?」

「屋上はダメ!」


屋上という言葉に、とっさに口から出てしまった。

「どうかしたのか?」

「…あ、いやそのっ…屋上は、ダメなの。ほら、あそこの階段の裏に行こうよ!あそこなら誰も通らないし…」

「ん、あ…そうだな。そこで話そうか。」


颯斗とのいつもの場所である屋上には、なんだか仁とは行きたくなかった。

ここは1階で、階段の裏に来る人は滅多にいない。

滅多にというか、もう0に近いほどいない。

そうしてすぐ近くの階段の裏に行って、薄暗い所で…仁は口を開いた。


「…なんて言ったらいいんだろうな。その…ごめんな。ごめんって簡単な一言では済ませるようなことじゃないってのは分かってる。」