国民的アイドルと恋しちゃいました。


「莉奈?」

「ん?」

「いや、いつもみたいにムスッとして怒るのかと思ったから。」


いつもみたいにムスッとって、あたしいつもいつもムスッとしてないのにー。

いつもだったらこう言い返すんだろうな。

でも今日は颯斗がデートしてくれて、一緒にいてくれるから…


「だって、あたしは颯斗と一緒にいることが出来るだけで十分だもん。」

「…莉奈」


少しだけ顔を赤らめてる颯斗。

なんか今日のあたし、ちょっと素直だよね?
いや…結構素直だよね。

いつもこんなに素直になれたら苦労することはないんだろうけどね…

そしてそれから近くの公園に行って、ベンチに座って2人でずっと話してた。

いつも屋上で話してるみたいにベンチに座ってた。

夕方になるまで、ずーっと座って。

昼ご飯を食べるために少しだけ近くのスーパーに寄ったりはしたけどね。


「ほんとにここでいいのか?」

「うん。家まで来ちゃったらママとお姉ちゃんが騒ぎ出すと危ないし…」

「騒ぎ出すのか?」

「うん…だって、ママとお姉ちゃんprinceの大ファンだから。」

「…そうだったのか!?お前、そういうことはもっと早く言えって。」

「え!いや、それは絶対無理だよ!ママとお姉ちゃんがどんだけprinceが大好きか分からないからそんなこと言えるんだよー?」

「そうかそうか。」

「うん、そうなの。じゃあ…今日はありがとうね。ばいばい!」

「ん。じゃあな。気をつけて帰れよ!」


“うん”とだけ頷いて帰る。

少し暗くなってきたから公園を出て帰ってきたあたし達。

電車乗って地元の駅に着いて、家まで送って行ってくれると言ってくれたけど、家に帰った時のことを考えて断った。

少し颯斗とばいばいして離れたから、後ろを少し振り返ってみる。


「…まだいるっ」


まだばいばいした場所に颯斗がいる。

大きく颯斗に向かって手を振ってみると…

ちょっと離れてちょっと小さくなった颯斗が少しだけばいばいってしてくれた。

いつもはいじわるで俺様な颯斗だけど、こういうちょっとした所で優しくなるとこがいいんだよね。

今日も、寒いって言ってないのにすぐに気付いて上着をあたしに着せてくれて…

こういう所がやっぱり好きなの。

なんかあたし、記念日だからかな?

ちょっと素直になってるよねっ。

颯斗との1ヶ月記念日のデートから、1週間経った。


もう1ヶ月くらい前の夢のことのような気もする。

でも、ドキドキっていうか…颯斗の1つ1つの表情っていうのは昨日のことのように覚えてるんだよね。

…いや、昨日のことよりもちゃんと覚えてるかも。

でもほんと颯斗カッコ良かったんだもん。

その日の夢にまた颯斗が出てきたくらいカッコ良かったんだもん。


「もー、莉奈ったらまたニヤケてるー!」

「…え?ニヤけてないよっ!」


授業中だと思ってたのに、いつの間にか終わって休み時間になって。

優花がニヤニヤしながらあたしの方を振り返って言ってきた。

席替えをしたあたしは、また窓際の席になった。

そして前の席の人は今振り返ってきた優花になったの。


「いや!絶対今、颯斗くんのこと考えてたでしょ?」

「か、考えてないよっ!!」


考えてたから図星だけど、そんな素直になれるわけがないわけで…


「もー、莉奈ってぜんっぜん素直じゃないんだから……あ!颯斗くんだ!!」


突然優花が廊下を見てそんなことを叫び出すから…

さっきまで否定してたあたしだけど、「え!?颯斗?」ってすぐに廊下を見る。


「あはは、莉奈ー。颯斗くんが“いる”とは言ってないじゃん!颯斗くんのポスターがあったからだよ?」

確かに廊下には颯斗がイメージキャラクターをやっているCMのポスターが貼ってある。

だからって優花ひどい。

優花がそう来たなら、あたしだって優花に仕返ししてやる…!


「もう優花ひどいー…って、逸平くんじゃん!」


普通に話すフリしながら、教室のドアの方を見ながら言ってみた。

でも、今までの会話から全然信じてくれない優花。

…でもそれがほんとにいるんだよね。


「ほんとだよー?逸平くーん!優花ならここにいるよー!」

「……え?莉奈、そんな大声で…ほんとにいるの!?」

あたしがあまりにも大声で言うから驚いて教室のドアの方に目を向けた優花。

見た瞬間、ほんとにいるとは思わなかったのかびっくりした顔であたしをすぐに見てきた。


「え、莉奈…本当にいたの?」

「だから、あたしいるって言ったじゃん。」

「そうだけどー。」


いきなりの逸平くんに驚きすぎて疲れてる優花。


キーンコーンカーンコーン


もう休み時間が終わっちゃった。

あっという間だったから、廊下にもたくさんの人がいて急いで教室に戻ってる。

逸平くんもその1人。

「もう莉奈~、びっくりさせないでよ!」

「びっくりって…優花が信じないからでしょ~?あたしは本当のこと言っただけたもん。」


先生がまだ来ないから、優花が後ろを向いてコソコソと話してる。

コソコソと話さなくたっても、教室の中はすごくザワザワとしてるんだけどね。


「そうだけどさぁ…。てか、みんなザワザワし過ぎじゃない?」

「え?」


確かにさっきから先生が来てないからとはいえ、ザワザワし過ぎてる。


「ねぇ、莉奈!」

「え、どうしたの?栞…」


栞は廊下側から2列目の1番後ろの席で、結構あたしの席と離れてる。

でも、そんな所からすごく泣きそうな顔をしながらあたしの名前を呼ぶからびっくりした。

「ちょっと待って、メールするから!それを見て!」

「…う、うん。」


栞の形相にただ頷くことしか出来なくて、授業中は使ってはいけないスマホを取り出して握る。


「栞、どうしちゃったのかな?栞があんなに取り乱すことってないのに…」

「ほんと、だよね。」


…なんか嫌な予感がする。

優花の言う通り、栞があんなに取り乱すことは滅多にない。

だからっていうのもあるけど、あの栞の泣きそうな顔が頭から消えてくれない。


ブーブー


優花が何かを話していて、それに頷きながら栞のことを考えてたらメールが届いた。