「僕の卒業した大学はね、君も知ってると思うけど、教育大学でほとんどの学生が教師志望なんだ。

そしてほとんどの学生が毎年教員採用試験を通過し、教師になる。

僕みたいなフリーターは本当に珍しいんだ。

あまりに当然のようにみんな教師を志しているものだから、一度興味本位でなぜ教師になりたいかの聞いてみた。

そしたら、『子どもが好きで子どものために仕事がしたいから』っていう答えが返ってきたんだ。

僕は驚いた、というよりあきれたよ。

だって彼らは教員採用試験の数ヶ月前までほとんど子どもの事なんか考えたりもせず、大して教育書も読まず、理想の教師像が何なのかさえ描くこともしていないんだ。

それを指摘すると彼らはこう言ったよ。

『教師になったら一生懸命がんばるし、何より子どものことを愛しているから、それが生徒に伝わることが大事』

だってさ。

なんだかそのとき僕の母親を思い出したよ。

僕の母親はね、昔話したと思うけど、すごく弱い人だった。

いつも僕にひどいことをしては、泣きながら『ごめんね、あなたのこと愛してるからね』

って僕にすがってくるんだ。

でもね、僕は子どもながらに思ったよ。

愛してるならどうしてそんなことを僕にやるのかな?どうして僕の気持ちを考えてくれないのかな?僕を幸せにするにはどうすればいいのか考えてくれないのかな?ってね。」



そこまで言い切ってから、テーブルに置かれたアイスショートアメリカーノに口をつけた。

プラスチックのカップに付いた水滴が冷たい。