「少年、元気でな」


「おう。あんたもな」



 そんな短い言葉を交わして、あたしは改札を通り抜ける。


ちょうど扉を開けて待っていた電車に走って滑り込むと、プシューと間抜けな音を立てて、扉が閉まる。



 振り返ると、少年は背を向けて去っていくところだった。


ゆっくりと動き出した車内で、あたしは座席に腰掛けて、過ぎていく田んぼと山々を眺めた。



 結局、あたしは最後までその少年の名を訊かなかったし、最後までその駅の名を見なかった。



 老竹色の紙袋の中身はわらび餅だった。


父さんと母さんが帰ってくる前に家に着いたら、独り占めしてやろう。






             降車駅 fin.