「てかさ- あの車駄目だろ」




彼は白い息を吐きながら言った。

背の高い彼の顔は
今 陽の光でよく見えなかった。

でも眉をひそめているのは
雰囲気でわかる。




「どっちもどっちだよ」


初めて話すはずなのに
いつも話してるみたいだった。


実際 彼が先輩なのかも後輩なのかも
わかってない。



…もしかして 同級生??

ぅゎ- だったら失礼だよね。
顔も名前も知らないんだもん。

同級生じゃないことを祈ります。




「ぇ もっと優しい言葉かけてよ」


「…はぃ。ごめんなさい」




試すつもりで敬語を使う。



先輩だったら何も言わずに
スルーしてくれるはず。


後輩なら
「敬語なんてやめてくださいよ」
って言われるかな…??



……もし 同級生なら


「敬語とかやめてよ-。同級生やし」



……ッ。
ごめんなさいッ。

私 あなたのこと知りません。



「今『あなたのこと知りません』って
 思ったでしょ??」


俯いた私の頭に
彼の落ち着いた声が降ってくる。



…怒ってる??


彼の顔を見たくても
春の日差しが邪魔してよく見えない。


まず彼は前向いたままだし…。


そりゃ怒るよね。
同級生なのに覚えてないなんて。



「…ごめんなさい」

俯いたまま 謝ると
彼の背中が小刻みに震えてるのが見える。


…嘘ッ!! 泣いてる??
どうしよう…。

男の子泣かせるとか幼稚園ぶりだし。






「俺 転校生だし」



彼は微かな震える声で言った。


「は??」


聞こえた。
聞こえたけど意味わからない。




「俺 転校生だから知らなくて正解」



彼は 押さえていたものが溢れるように
大きい声で笑い出す。


……イラ.。



「ひかれとけば良かったのに」


また笑いを堪えようと
震える背中を思いっきり睨みつけた。