「やめておけ。悪化するぞ」



一歩踏み出したとき、坂本に腕を掴まれた。

それからすぐに我に返る。


坂本は手を離し去ろうとする。
が、途中で立ちどまった。



「怪我が完治したらまたここに来い」



そう言って学校の方へ戻っていった。

倉持梨華が駆け寄ってくる。



「ちょっと何してるの?
そんな状態で走ろうとするなんて馬鹿よ馬鹿!」


「すみません、つい」



あたしの返答にため息をつく。



「ついってなによ…
コーチ、無口だけど選手思いなのよ
だからすぐに止めに入ったんでしょうね」



選手か

つまり坂本はあたしを選手の一人としてすでに考えているということだろうか?



「それで、今日見学してみてどうだった?」



倉持梨華は神妙な顔つきで見つめる。

きっと彼女は入るか入らないかを気にしているのだろう。


答えは決まっていた。
やっぱりあたしは走ることが好きだ。

できることなら中学時代叶わなかった全国出場を目指したい。

もう一度走り出したい――



あたしの答えを聞くと、倉持梨華は笑ってよろしくと言った。