「坂本さん」



倉持梨華が坂本と呼ばれたその人に駆け寄る。



「例の1年です」



あたしが追いつくと、彼は視線をこちらに向ける。
一瞬、目を見開いた気がする。



「この人は外部指導の坂本さんよ」


「どうも、いち…」


「一之瀬樹…」


「え?」



あたしが自己紹介するよりも先に坂本が名前を言う。

倉持梨華はもちろんあたしもついていけず…

坂本は鋭い視線であたしを見た。



「えっと、お2人は知り合いなんですか?」


「…いや」



坂本は目を逸らした。
あたしはというと、何故かこの男に覚えがある気がした。


なんだろう

どこかで見たような…?



それから6時くらいまで活動を見学した。
練習はそこそこハードのようだが部員はみな楽しそうだった。

そしてあたしは坂本の指導に関心を寄せた。
なるほど、実績が上がってきている理由がわかる。


あたしも走りたい…


怪我をしているのにも関わらず走りたさに体が疼く。

少しくらいならいいだろうか?


松葉杖をそこら辺に置いてスタート位置に着く。
いつの間にか足の痛みは消えていた。



「一之瀬さん?」



倉持梨華の呼びかけにも気づかずクラウチングの姿勢をとる。

深呼吸をして、自分の中からの合図で走り出した――