「ところで、何かほかに話したいことがあったんじゃないの?」



真尋に言われるまですっかり忘れていた。
先ほどの出来事を真尋に話すと



「陸上部、入ってみたら?」


「いや、でも…」


「その、中学でいったい何があったの?」



あたしを入部に踏み止まらせているものの一つは過去の出来事だった。



幼いころから走るのが好きだった。

中学に入学してあたしはすぐに陸上部に決めた。

平日放課後は7時まで練習
毎朝は早起きして自主練だった。

その甲斐あって1年では関東大会ベスト8
2年は足を怪我して大会には出られず。
しかし3年になったら全国大会出場間違いなしとまで言われていた。


しかしある日、
あたしは練習中先生に呼び出された。



「…は?どういうことですか?」



先生から聞かされたことは普通ではありえないことだった。
というか絶対にない。



「一之瀬、この一年間の頑張りでお前のタイムは急激に伸びている。
それはうちの男子にも劣らないタイムだ。
今うちの女子はお前のおかげか全国レベルの力を持つ子が多い。
なら、多くの人が個人で全国に行けた方が実績としてもメリットがある。」


「それで、あたしが男子としてでろと…?」


「お前は去年大会には出ていないし先生がうまくやるからどうにかなるだろう」



どうかしていると思った。
当時のあたしとってこれほど悲しいものはなかった。

きっと先生は外見も考えてこういう提案をしたのだろう。
普段から男と間違えられるあたしならばれやしないと…