この状況を誰か助けてはくれないだろうか。

その時



「すみません、一之瀬樹さんはいますか?」



教室の入り口から呼ぶのはすらっとして長い黒髪をポニーテールにした女子生徒だった。
上履きの色からどうやら2年生らしい。



「あたしがそうですけど…」



返事をすると女子生徒はあたしの前まで進んで立った。
正面から見ると目がキリッとしていて全体的にシャープな印象を与えていた。



「あなたが一之瀬樹さんね。本当にかっこいいわね」


「は、はあ、ありがとうございます」



彼女は何しに来たのだろう?
まさかそれだけ言いに来たわけではあるまい。

女子生徒は軽く自己紹介を始める。



「私は倉持梨華、陸上部の部長よ」



倉持梨華の話し方はとてもすっきりとしていた。
陸上部か…
何となく内容は読めた。

倉持梨華はすぐに本題に入った。



「単刀直入に言うわ。
あなた、陸上部に来る気はない?」



話を聞いていたクラスメイトがざわつく。
なかにはやっぱりなという声も聞こえた。



「体育祭での活躍見事だったわ。
女なのに男子にも劣らぬ瞬足。
50mの噂を聞いたから当日100mのタイムを測らせてもらったけど
全国出場も夢ではないと思う」


「噂、他学年にも広まっていたんですね」



生徒の情報網はなんとも恐ろしいものだ。