あともう一人、この学園には通っていないけど
副総長
五十嵐疾風(イガラシハヤテ)
珀龍神のまとめ役。
頭が良く、全体の指揮をさせれば彼の右に出る者はいないだろう。
何でも溺愛中の彼女がいるとかいないとか。
この人たちが騒がれるのは全国No.2の珀龍神だからってだけじゃない。
もちろんそれもあるけれど、何よりもその完璧すぎる容姿。
珀龍神幹部はかなりの美形揃いとして有名なのだ。
どうしてこんなに知ってるのかって?
そんなの、この学園にいたら嫌でも耳に入ってくるからね。
女の子たちがいつもキャーキャー騒いで噂してる。
ま、私は全く興味ないけれど。
ブーッブーッ
外をボーッと眺めていると、最近買い換えたばかりのスマホが制服のポケットの中で振動した。
あ、電話だ…しかも永遠(トワ)からだし。
出るの面倒くさいな…無視しようかな。
しばらく画面を見ていたが、一向に電話が切れる気配がない。
はぁー、しょうがないか。
ピッ 理「……何?」
永『あ、やっと出た!!お前無視しようとしただろ!?』
電話の向こうから聞こえるどデカイ声に思わず耳からスマホを遠ざける。
うるさい、鼓膜破れる。
永『おい、理央聞いてんのか!?』
理「あーはいはい聞いてますよ。で、なんか用?」
永『だから、今日の昼来いよ!!分かったか!?』
だからそんな大声出さなくても聞こえてるって。
私はとりあえず「分かったー。」とだけ返事をしてすぐに電話を切った。
あれ以上続けてたら私の鼓膜が危なかった。
スマホをポケットに戻すと同時に、朝のSHRが始まる鐘が鳴って担任が教室に入ってきた。
全く興味の無い担任の話を軽く聞き流しながら、再び窓の外に視線を向ける。
空にはいくつか白い雲が浮かんでいた。
何気なく過ぎていく毎日。
色が無くモノクロ世界。
いや、以前が色鮮やか過ぎたんだ。
だから今は少し色褪せているように見えるだけ。
……そうだよね?
私は静かに空に語りかけた。
昼休み。
私はある扉の前に立っていた。
プレートには[理事長室]と書かれている。
“コンコン”
理「失礼します。」
永「お、理央やーっと来たか!」
中に入ると、社長が座るような高そうな椅子に腰掛け、机の上に足を乗せてゲームをやっている私を呼んだ張本人。
水瀬永遠(ミズセトワ)
私の兄でありここ一之瀬学園の理事長。
理「はぁー。あのさ“一応”理事長なんだからそんな堂々とここでゲームしないでよ。」
永「一応って何だよ一応って!それに今かなりいいとこなんだよ!!」
口を尖らせながらそう言う永遠はまさに小学生と同レベル。
いくつになっても子どもっぽい。
こんな兄ですが、これでもあの珀龍神の元総長。
普段はこんなだけどいざとなれば結構やるらしい。
永「おっしゃクリアーーー!!!」
ま、この状況では全く考えられないけど。
理「全く…。で、私に何か用?」
永「ん?あぁ、そうだった。」
そう言うと永遠は持っていたゲームを横に置き、急に真剣な顔になった。
だいたいの何の事かは予想はついてるけどね。
永「実はな、“覇桜”が動き出してる。桜姫…お前を探してな。」
……やっぱり。
覇桜。
全国No.1の暴走族。
正統派で総勢150人という少ない人数ながらNo.1の座を守り続けている最強の族。
そのトップに立っていたのが、七代目総長【桜姫(オウキ)】
桜姫は完全トップシークレットで覇桜のメンバー以外、本当の姿を見た者はいない。
ーーーーその桜姫が私。
私はある日を境に皆の前から姿を消した。
そして、前いた街から遠く離れたこの街に来た。
あれからもう一年になるのか…。
永「で、どうするんだ?アイツ等の事だからきっと見つけるまで引き下がらねぇぞ。」
分かってる。
皆の事は私が一番よく分かってるから…。
でも、会えないよ。
理「……まぁ大丈夫でしょ。情報は完璧に守られてるし、そのうち皆も諦めるよ。」
私は皆には会えない……会っちゃいけない。
だって私はーーーーーー
仲間を……“殺した”も同然なんだから。
“コンコン”
再び理事長室のドアがノックされた。
永「今取り込み中なんだけどー。どちら様?」
ガチャ「俺ーー」
そう言って入ってきたの見慣れたイケメンだった。
理「あ、陸玖じゃん。久しぶりー。」
水瀬陸玖(ミズセリク)
私の双子の弟。
姉である私が言うのもなんだけど、陸玖はかなりのイケメン。
学園では“王子”なんて呼ばれてたりして、あの珀龍神並み騒がれている。
永「お前が学校来るなんて珍しいじゃねえか。仕事が片付いたのか?」
陸「まぁな。ったく、親父は人使い荒れぇんだよ…。」
陸玖は滅多に学校に来ない。
と言うかある理由で来たくても来れないのだ。
陸「あ、そう言えば理央、最近帰って来てないだろ?母さんがたまには帰って来いって言ってたぞ?」
「アレはちょっと怒ってたな。」と最後に脅すように付け足す陸玖。
ま、まじで?
私は今、家を離れて一人暮らしをしている。
確かに最近帰ってなかったかも。
前に帰ったのは正月だったっけ?
かれこれ4ヶ月は経ってる。
近々帰ろうかな…お母さん怒ったら怖いし。