止まっていた涙が一気に溢れ出す。
「ですよねぇ〜?それが一番いいですよぉ。」
もう周りの声なんてどうでもよかった。
ただただ、悲しかった。
涙が次から次へと流れる。
ギュッ
疾「今度からこいつは俺の幼馴染みじゃなくて……“彼女”だから。」
……え?
疾風の匂いに包まれた私はすぐに抱きしめられている事に気付いた。
…彼女?
菜「疾風、どういう…」
疾「そのままの意味だけど?て事だから、これならもう文句ないだろ?これ以上菜々夏に手出したら、今度は容赦しねえからな。」
その時の疾風はすごく怖かったのを覚えてる。
疾「はぁー、全く。教室にいないから心配しただろ?」
私の腕を引きながら呆れたように言う疾風。
菜「ご、ごめん…。って、そうじゃなくて!疾風、さっき言った事って本当?」
まだあまり状況を理解出来てないんだけど…。
すると、疾風は立ち止まって私に向き直った。
疾「本当はもっとちゃんと言うはずだったんだけどな…。」
ドキドキと心臓がうるさい。
そんな言い方されたら、期待しちゃうよ?
疾「菜々夏、俺はお前が好きだ。幼馴染みは卒業して俺の彼女になって。」
その言葉を聞いた瞬間、私は疾風に抱きついた。
菜「私も、私も疾風が好き!」
こうして、私は疾風の“幼馴染み”から“恋人”になった。
†菜々夏side end†
菜「って感じ……理央、ニヤけすぎ。」
菜々夏の話を聞きながら終始ニヤけっぱなしの私。
だってこんなドラマみたいな話ある?
理「疾風もなかなかやるねー。その後いじめはどうなったの?」
菜「付き合い出してすぐ姫になったからいじめはすっかりなくなったよ。さすがに皆、珀龍神を敵には回したくないみたい。」
やっぱりそれはどこも一緒なんだね。
それから私たち二人はずっと話し続けていた。
この前のバスケの話しや菜々夏の学校のこと、よくここまで話題が出るなと思うくらい。
気がつくと夜中の三時をとっくに回っていて、さすがに寝ようかとなって布団に入った。
そして次の日の朝。
まだ連休中だから翼たちには朝の9時に迎えに来ると言われていた。
にも関わらず、起きたのはまさかの9時。
理「ぎゃー!菜々夏起きて!寝坊した!!」
菜「ん〜もうちょっと…スースー。」
寝るなーー!!!
菜々夏を叩き起こして超特急で用意を終わらせ車に乗ると、鬼の様な翼と疾風がいた。
もちろん、みっちり説教を受けました…。
†翼side†
ある日の昼休み。
俺たちはいつもの空き教室で過ごしていた。
優「あれ、理央寝てんの?」
優聖の目線の先には、俺の肩に頭を乗せてスースーと寝息を立てている理央。
翼「昨日の夜読んだ本が面白くて寝れなかったんだと。5時間目はサボるってさ。」
陽「理央りんがサボるなんて珍しい事もあるんだな。ま、おかげで俺もサボれるからいいけどー。」
理央が姫になってから陽希はちゃんと授業に出るようになった。
と言うか、理央に強制的に連れて行かれている。
「一人だとつまんない!」らしい。
優「にしても理央も無防備だねー。いくら俺たちだからって、男だけの場所で爆睡だもんな。」
そう言って、理央の頬をツンツンとつつく優聖。
翼「触んな。」
俺はその手をパシッと払いのけた。
優「そんな睨むなって。たく、翼は理央の事になると鬼になるよな。おー怖い怖い。」
分かってんなら初めからするなっつーの。
俺は優聖から眠っている理央へと視線を移した。
……本当無防備だな。
他の男なら確実に襲われてるぞ。
菜「皆やっほー!ってあれ、理央寝てる?」
勢いよくドアが開いたかと思うと、菜々夏と疾風が入ってきた。
優「この時間に二人で来るなんて珍しいな。どうしたわけ?」
疾「菜々夏が理央ちゃんのとこへ行くってきかなくてさ。その理央ちゃんは寝てるっぽいけど。」
陽「はぁー、疾風だけなら静かだったのにさ。俺の優雅なサボりが台無しじゃんかー。」
菜「ちょっと陽希、それどう言う意味よ!!」
一気に騒がしくなった教室。
はぁー、ったくこいつらが揃うといつもこうだな。
疾「ほら静かに。理央ちゃんが起きちゃうだろ。」
その疾風の言葉で全員の視線が理央へと向く。
翼「…まだ爆睡中。」
一体、昨日何時まで本読んでたんだよ…。
この様子じゃ当分起きねえな。
菜「あーぁ、残念。せっかく理央に会いに来たのに…。ま、寝てるなら仕方がないか。起きるまで待ってよっと。」
そう言って菜々夏はソファーに座ってテレビを見始めた。
陽「なあ、久しぶりに屋上行かね?」
優「あー、そう言や最近行ってねえなー。」
屋上は俺たちのもう一つの溜まり場だ。
先代である永遠さんが好きに使えと鍵をくれた。
菜「行きたい!天気も良いし行こうよ!馬鹿な陽希もたまにはいい事言うじゃん。」
陽「だろー?……ん?馬鹿は余計だ!!」
疾「はいはい、すぐ喧嘩しない。それより、屋上行くのはいいけど理央ちゃんは?」
「起こすのは可哀想だろ?」と言う疾風。
翼「俺が連れてく。」
俺は寝ている理央の足と脇の下に手を入れて抱え上げた。
俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
翼「これなら問題ねえだろ?行くぞ。」
疾「はぁー、全く。落とさないように気を付けなよ?」
俺がそんなヘマするわけないだろ。
て言うか、理央軽すぎ。
ちゃんと食ってんのかよ。
菜「お姫様抱っこされたなんて知ったら、理央どんな反応するだろ?絶対面白いよね。」
優「恥ずかしすぎて死んじゃう!とか言うんじゃね?」
…想像つくな。
そんな会話をしながら俺たちは屋上へと向かった。
空き教室から屋上までは目と鼻の先。
廊下を少し行って階段を二つ上がれたばすぐだ。
ギギーッ
菜「気持ちいいー!本当いい天気!!」
陽「昼寝できそー。」
少し錆びた屋上のドアが音を立てながら開くと涼しい風が頬を掠めた。
疾「ソファー持ってくる?」
翼「あぁ、頼む。」
屋上には来た時のためにソファーを置いてある。
もちろん、帰る時はちゃんと片付けるから衛生的には問題ない。
優「よいしょっと。ほら、その眠り姫さんを寝かせてやんな。」
翼「悪りぃな。」
俺は疾風と優聖が運んできてくれたソファーに理央寝かせた。