「どこか行くの?」
また頭上から声が降ってきた。
私は答えなかった。
答えを持っていなかった。
しかし私はその前に、自分に答える気力がないことに気がつく。
なんだか酷く疲れていた。
それになんとなく身体が熱い。
理由は分かっている。
雨に濡れたまま冷房に晒されたのがいけなかった。
こんな所で熱を出していては洒落にならないのに。
一分でも、一秒でも早く、あの街を離れなくちゃいけないんだ。
しっかりしろ。
言い聞かせる自分の声が、頭の奥でガンガンとこだまする。
眠いのか、熱があるのか、もはや分からなかった。
「…中山さん?」
彼に顔を覗きこまれた気がした。
しかしその時既に彼女の意識は遠のいていた。