早くどこかに行って欲しかった。
知った顔に、ましてやクラスメートになど、会いたくなかった。
しかし彼は席に帰るどころか、私の隣に立ったまま壁に背をもたせかけた。
私は絶望的な気持ちになった。
「中山さん、だよね?」
頭上から振ってきた声に、顔を上げずに頷く。
「俺、御波だけど…、知ってる?」
知らないわけがない。
同じクラスになって2年目だというのに。
その前に、彼が私の名前と顔を知っていたことにまず驚いた。
御波悠人(みなみ ゆうと)。
クラスの中で人気者の位置づけである彼は、地味な私との接点など今まで皆無であった。
私も彼と同じクラスになった時、あぁ、一生関わることのない人種だ、と認めた瞬間に彼の存在を考慮から抹殺していたくらいだったのだから。
おそらく彼の方でも同じ認識だったのだと思う、その問いかけはだからだったのだろう。
彼の問いかけに再び頷くと、彼も「そっか」と頷いた気配がした。