静かな部屋の中、少しだけ頭が整理されていく。
額に手をあてがうと、マットな感触に触れた。
温くなったひえぴたが額に貼られている。
あの時、御波くんに話しかけられたのは覚えている。
しかしそれから先の記憶が抜け落ちていた。
熱と疲労で倒れてしまった。
そしてその私を御波くんが看病してくれていた。
よく分からなかった。
こんなことがあっていいんだろうか。
その時ガチャリと部屋のドアが開いた。
入ってきた御波くんが私にコップを手渡す。
「ポカリ。飲める?」
渡されるがまま頷き、コップに口をつける。
それを見届けると、御波くんはデスク前の椅子に腰掛け本棚に手を掛ける。
「あの」
思わず声を上げた。
「ん?」
一冊の本を手にしたまま御波くんが振り返る。
その真っ赤な本の表紙に書かれた「K大医学部」の文字がちらりと見えた。