男は、ゆっくりと僕に歩み寄ってくる。


形のいい唇が、三日月型に歪んだ。



「よぉ、南葵……」


「あなた…誰ですか?」



何で僕の名前を知っているんだろう。


知り合いに、こんな人はいなかった気がするんだけど……



「俺は…お前がよく知ってる奴の親父だ」


「それって…川瀬、玲奈……?」



確か、そんな名前だった気がする。



「そ。玲奈の父親……川瀬翠斗だよ」



不敵に笑う、川瀬翠斗。


玲奈が言っていた『父さん』は、この人か。



「俺はワケあって少年院にいてな。15年前に出てきたんだが……お前、本当に似てるな」


「似てる……?」


「その髪も、顔つきも。好きな女を守ろうとするその態度も……南蓮央にそっくりだ」



南、蓮央……?


父さんとこの人は……関係があるのか?



「あなたは父さんを知ってるんですか?」


「親父だけでなく、母親も知ってるぞ。俺が最初に抱いた女だからな」


「っ……!?」



母さんのことまで、知ってるなんて……


しかも、『抱いた』?


この人は一体……!?


警戒しながら身構えていると、川瀬翠斗は腕組みをしてフンッと笑う。



「アイツらだけは……許せねぇ。俺から全てを奪った、お前の両親だけは……」



そう言って顔をあげた川瀬翠斗の顔は……


憎しみに、歪んでいた。