「あのときのことを思い出すと、胸が苦しくなって、息が出来なくなるの。怖くて、怖くて。でも……ここは、空気が綺麗」



まぶたを開き、口角をあげる朱架。



「葵くんが、いるからかなぁ」


「僕が……?」



意外な言葉に驚き、目を見開く。



「葵くんとぶつかったあの卒業式の日、葵くんはあたしに手を差し伸べてくれた。
本当に、嬉しかったんだ」



満面の笑みで、彼女は言う。



「ずっと、お礼が言いたかったの。
……ありがとう、葵くん」



『葵』




その笑顔が、母さんと重なった。


周りの人全てを魅了する、華のような笑顔。