「南蓮央への嫉妬から、俺は狂っちまった。アイツをこの手で殺そうとしたなんて……今考えると信じられねぇ」



川瀬翠斗の声が震えている。


その声を聞くと無性に…苦しくなった。



「……お前の両親に、『悪かった』って伝えてくれ。俺も、前に進みてぇしな」


「わ……」



大きな手で僕の髪をくしゃりと掴み、歯を見せて笑った川瀬翠斗は朱架に視線を移した。



「……悪ぃな。玲奈がひでぇことして」


「いえ…。あの、父は……あなたに申し訳ないと……ずっと言っていました」


「何……?」



朱架は、真っ直ぐに川瀬翠斗を見る。



「『子分の罪は俺の罪。アイツが俺を恨んでも、俺は何も言わない。悪いのは俺だから』
……酔った父が、あたしに言ったんです。その時は何のことか分からなかったけれど……今なら分かります」


「……そうか。
………親父に伝えてくれ、『許す』ってな。」


「え……」



笑う川瀬翠斗を、びっくりして見つめる。


彼は、さっきまでとは違う……優しい笑みを浮かべた。



「お前が言ったんだろ、変わりたいと願うなら許すことも必要だって。俺は変わりたい。過去の自分に……決着を着けてぇんだ」


「翠斗、さん……」


「死んだ美咲のことは、絶対に忘れない。あ、美咲っつーのは俺の嫁な。…俺を変えてくれたのは紛れもなくアイツだから。でも……いつまでも引きずるわけにはいかないし?」



そう言って笑う川瀬翠斗の顔は、少し悲しそうだ。


愛した人の死を引きずらないっていうのは、多分……いや、絶対に無理だ。


それでも…この人は、変わりたがってる。


明るい未来を、見ようとしているんだ。



「じゃーな、葵。不良になんなよ!」



笑って僕と朱架に手を振り、川瀬翠斗……翠斗さんは、歩いて倉庫から出ていった。