“ブロロン……。”
車と共にあたし達の身体も揺れる。
「お母さん、運転何年ぶり?」
「三年ぐらいかしら。」
「それってさ、ヤバいんじゃないの?」
「やってみなきゃ分からないじゃない♥」
「あ、そ…………。」
お母さんの鼻歌が聞こえる。これが最後のメロディーになりませんように……。
「ねえ、寄り道って、何処か行くの?」
「今日はレストランデーなのでした~。」
「レストラン?」
「お洋服を買わなきゃねって事。もちろんお姉ちゃんのだけだけど。その恰好じゃ相応しくないのよね~、何て言ったら良いのか悩み物だけど。」
ああ、そうですか……。
窓の外を見ると、大粒の雨が何回も窓を叩いている。少しうっとおしいほどその雨は降り続く。多分、明日まで続くんだと思う。あたしの心の涙と一緒だね。なかなか止むことのない悲しみにそっくり。何だか詩人?
「ねえ、制服はきつくない?」
「もう成長止まったしね。」
「あら、そうなの?」
「大輔にも直ぐ越されるね~。」
「お、そりゃあ姉ちゃんより小さかったらハズいし!ドンだけ低いんだよって笑われるわ。」
「あ、それあたしに失礼~。」
弟にも、お父さんにも、れん君は当てはまらないだろう。あの温かみのある安心感と独特の雰囲気は、なかなか見つからない。
そう思っていたら、さっきの保健室の事を思い出した。
「…………。」
「姉ちゃん?」
「へ?」
「腹減ってんのか~?食い意地張りすぎっ!」
「何よ~。」
忘れられない、目に焼きついてしまったあの光景。あたしの胸は、どんな中傷を受けるより傷付いていた。だから、この悲しみが消えるまで、あたしは多分思い切り笑えないんだろう。ずっと、ずっと消えない気がしたのは、あたしだけだろうか。
れん君、あたし、今寂しいんだ。
れん君はヒーローだったはずなのに
あたしの心を今は傷つけてるよ。
ねえ、あれは、夢だと言ってよ。
あれは、不意打ちでしょ?
寝てたんだよね?
受け入れてなんか、いないでしょ?
付き合ってないけど、
まだキスだってしたことないけど
凄く、辛かったんだよ……。