「ごめんね~…俺葵ちゃのこと置いて逃走するかも」
「それ、ほんとにしたら一生恨みます」
なぜか二人とも小声。
先に入ったあやめと舞の二人の、楽しそうだけれどすさまじい悲鳴が時折聞こえてくる。
そのたびに両者びくっと立ち止まっていて、一向に先に進まない。
お化け屋敷に入るとき、一緒に入る人物が恐がりだとこんなに不安だとは知らなかった。
「ほ、ほら。行きますよ先輩」
「…恐いって言ってた割にはたくましくない?」
「頼りにできる相手が誰もいないので」
そう。自分が頑張らねば一生ここからは出られない。
これは人形人形人形…
精巧に作られすぎな蝋人形を極力見ないようにしながら、できる限りのはや歩きで進む。
「葵ちゃんなんか喋っててよ」
沈黙が耐えられないのか、先輩がくいっと服の裾を摘んできた。
…何歳児だこの人。
「先輩が喋ってくださいよ」
「喋るようなことないもん」
「じゃあせめて御題とか質問とか…」
喋ってくださいといわれて喋りだせるほど、話術が巧みなわけではない。むしろ大の苦手だ。
先輩はじゃーねー…と考えたあと、
「好きな人いる?」
とのたまった。