「葵ちゃん~無事?」
「…なんとか」
ただ上下するだけのジェットコースターなら、自分だって文句は言わない。
とりあえず踏ん張っておけばいいのだから。
けれど回転があるなんて聞いてない。
目を閉じるまもなく視界が一回転したのを思い出すと、途端に気分が悪くなった。
「あんたも情けないわね~。・・・いいわ。次は絶叫系はやめましょ」
あやめは呆れ顔でそう言うと、パンフレットを取り出して他の1年達と次の行き先を相談し始めた。
次の移動先が決まるのを、ベンチに突っ伏するようにして待っていたら、首元にひやりとした感触。
「ぎゃ」
「これ飲んでまってよーよ」
缶ジュースを持った薫先輩が、隣に腰掛けてきた。
はい、と言って渡されたのはお茶。先輩は自分のコーラの栓を開ける。
「ありがとうございます・・・よく覚えてましたね、私が炭酸苦手なの」
「なんか覚えててね。ついでにお茶好きってのも覚えてた俺、えらいでしょ」
純粋に関心した。
素直に頷くと、先輩は照れたように頬をかいた。・・・なんだか可愛い。
うちの大学は大して頭がいいわけでもない。一応国公立だけれども。
けれど馬鹿がごろごろしている運動部には珍しく、先輩はなかなか頭がいいように見えた。
うちでずば抜けて頭がいいのは誰かと言われれば、それは萩君だ。
あとから聞いて驚いたけれど、なんと入学試験は主席だったらしい。
そんな彼とたまに小難しい話題で盛り上がっていたりする。
「先輩って、何でうちの学校来たんですか?」
確か、前は薬剤師になりたかったのだと話していた。
けれどうちには薬学部なんてものはなく、どちらかというと社会科学系の学部が充実している。
聞くと先輩は苦笑した。
「あんまり大きな声じゃ言えないけどね。当時好きだった人がこの学校だったんだよ」
「…そうなんだ」
なんと感想を言っていいのかわからなくて、ぬるくなって来た缶を見下ろしたまま、早く行き先が決まらないかと思っていた。
なんだか妙に悲しい気分なのは、なぜだろう。