「楽しみだねぇ。葵ちゃんは絶叫大丈夫なひと?」
「全然大丈夫じゃないひとです」
遊園地までの電車の中。
薫先輩の言葉に間髪入れず返事をした。
「そなんだ?大丈夫!じゃあ俺が一緒に乗ってあげるよ」
「え゛」
それはそれで心臓がもたない。
やはり6年間箱庭で生活してきたものだから、俗世に対して非常に疎くなってしまっていた。
とにかく、同じ空間に男という生き物がいることが不思議だった。
教室には女のみ。
男性教師は全員定年間近。
そんな中で多感な時期を過ごしてきたのだ。
自分の中で世には同世代男子などいないような錯覚が生まれていた。
大学でも、隣に男子が座ってくれば何故か逃げていた。
挟まれた時のいたたまれなさは、思い出したくもない。
それを知って、先輩達も面白がっているふしがある。
肩は抱くは、やたらキザなセリフは吐くわで、その度に真っ赤になって動揺してしまう自分が情けない。
「純情な乙女をからかわないっ」
返事できないでいる所を救ってくれたのは、あやめの鉄拳だった。