「莉緒、」

「若、もう平気なの?」

「クーラーの偉大さによって、魂が浄化されちゃうくらいに全快したよ。」

「今から戻るの?」

「と、思ってたんだけど。そちらは?」

莉緒と、莉緒の横にいたもう一人に向けて聞いた。

莉緒が少し気まずげな表情になって、莉緒の隣の子が顔をあげた。

それで初めて、その子が誰か分かった。

「竹野真綾、ちゃん。」

思わず口に出してしまう。

一応初対面だと慌ててちゃん付けにした。

「えっと〜、うちらはまだここで休んでるから、先に行ってて。みたいな」

「ん、じゃあそうするよ。」

竹野真綾の瞳は赤くなっていて、瞼は腫れている。

一目で泣いたと分かる。

あまり見られたくはないだろうと、立ち去ろうとした時。

「若松、楓さん?」

「ん、そう、だよ?」

竹野真綾に止められる。

あまり、話していて楽しい相手じゃないし、私は彼女に対して、後ろ暗いところがある。

どもりながら答えると、真綾さんはニコリと口角をあげた。

「そのピン可愛いね」

こめかみに止めていた赤い石とパールのヘアピンを指差していう。

ホワイトデーのお返しに葉月からもらったものだった。

「ありがとう。この色すきなんだ。真綾ちゃんのネコピンも可愛くて似合ってるよ」

言い捨てて足早に離れる。

すごく、やらかしてしまった気がした。