「ありがとうございました」
一晩泊めて貰った挙句食事までご馳走になった私は榊に深々と頭を下げる。
「いえいえ、狭いくてボロい家だけど満足してもらえたみたいで良かったよ」
榊はにこにこと笑う。
確かにお世辞にも綺麗とは言えない家だったが、人が住むには充分な広さと設備があり、田舎の家独特の畳しかない空間も、まるで自分の家のようで安心できた。
「いえ、とんでもないです!すごく居心地よかったです」
「そっかあ」
榊は私の言葉に嬉しそうに頷きながら言う。
「これ、あげるよ」
「え?」
榊の言っている意味がわからず、首を傾げる。
「これ、この家、どうせ空き家だし」
私は榊の言葉が上手く理解できない。
この家は榊のものじゃないのか、など言いたい事は沢山あったが、私はその中でも最も重要な一つを口にした。
「私、貰ってもここには住めませんから勿体無いです」
私の言葉を聞くと榊はくすくすと笑う。
「何言ってるの?君の家はもう無いじゃないか」
「え?」
「燃えただろ?火事で。両親を失ったじゃないか、忘れたなんてことはないでしょ?」
ああ、そうだ。
私の家は、両親は火事で。