「あ。夏波ちゃん」

いつの間にか私のこと「夏波ちゃん」ですか。
まぁ、いいけど。

「は、はい!!何デショウカ!?」
「ちょっと耳貸して~??」

顔を近づけるとボソッと聞こえたドスのある声。

「抜け駆けしてんじゃねーよ」
「…………いッ!!」

そういって私の耳たぶを思いっきり掴んだ玲奈ちゃんに悲鳴をあげる。

「おいおい。何してんだ~??」
「え~?なんか、夏波ちゃんが照れること言ってくるからつい~♪」

猫かぶり―……

「ふ~ん??」
「えー、そこもっと関心持とうよぉ」
「へー、照れることって何ですかー??」

抑揚の欠ける声で言った先生に玲奈ちゃんはひとしきり笑ってからニッコニコのスマイルでとんでもない爆弾発言。

「『玲奈ちゃんと先生ってお似合いだよね!!』って♪」
「「―……ッ!!??」」

先生と私は思わず顔を見合わせる。

「ちょっと先生!!前、前~!!」

玲奈ちゃんの声で我に返った先生はハンドルをきりながら平静を取り戻していつものように軽く言葉をつき返す。

「ごめん、広瀬。俺にはセバスチャンがいるから……」
「セバスチャン??」
「ウーパールーパーだよ」

思わず呟いてから私は「しまった」と玲奈ちゃんの方を見た。
視界の隅に映った先生は玲奈ちゃんに見えないくらいかすかに「バカ」と口を動かす。

「……なんで夏波ちゃんがそんなこと知ってるの??」

笑ってるけど、目が笑ってない。
これって作り笑いより犯罪モンだと思う。